RIRI、いよいよ本格始動! “ボーダレス”に広がる新世代アーティストの可能性
昨年より、Apple MusicやSpotifyといったストリーミングの音楽サブスクリプションサービスが日本でも本格始動し、お気に入りの音楽も、これまで自分が知らなかった新譜も、いつでもどこでも好きなだけアクセスできる時代になった。加えて、ハッシュタグを付けてすぐにSNSに投稿すれば、世界中の音楽ファンとも同じ話題で瞬時に繋がることができる。音楽を発信する側も、受け止める側も、よりボーダレスに楽しめる時代がやってきたのだ。この“ボーダレス”というフレーズ、ある日、Spotifyのプレイリストを聴いている時にひしひしと感じたのだ。最新のR&Bを流すプレイリストを聴いていた時、ミゲルやSZA、ジャネイ・アイコといったUSのアーティストに混じって流れてきたのはRIRIの「RUSH」だった。サウンドはもちろん、ドラマティックでありながら一定のクールさを備えたRIRIの表現力は、先述したUSのアーティストにも引けを取らないもので、プレイリストの中に混じっていても違和感を感じさせないほどだった。
新世代のアーティストは、自身の思う“クールネス”を音楽に落とし込むのがうまい。それは、小さな頃からインターネットや携帯電話、SNSやYoutubeに囲まれて、あらゆる情報を取捨選択しながら育ってきた世代だからだろうか。今やお茶の間にまでその名を轟かせるようになったSuchmosはまさにその最たる例だろうし、活躍の場を世界規模にまで広げている水曜日のカンパネラは、幅広い世代からファッションアイコンとしても注目されるほどだ。国内ヒップホップシーンに目を向ければ、KANDYTOWNやBAD HOP、kiLLaといった思い思いのクールさをビジュアルとサウンド、そしてリリックに落とし込んだクルー勢の活躍も目立つ。こうしたアーティストの持つ魅力の不思議な点は、最先端のサウンドを提示しつつも、どこか懐古主義的な部分も見られ、若い同世代のリスナーを惹きつけるとともにすでに上の世代ーー例えば、Suchmosの楽曲を聴きながらジャミロクワイなどのアシッドジャズやディアンジェロやエリカ・バドゥといったネオソウルの雰囲気にも共鳴しているような世代、もしくはKANDYTOWNのアルバムを聴きながらJ・ディラやDJプレミアといったプロデューサーの手によるビートと同じ質感を感じるような世代ーーをも虜にしている点だ。彼らの魅力は、強烈な個性を武器にして世代間をボーダレスに繋いでいる点にもあると言えるだろう。
そこに登場する、さらなる新世代アーティストがこのRIRIだ。地元・群馬で歌手を目指し、インディシーンで活動するうちに国民的人気を誇るAIに見初められ、2016年には『SUMMER SONIC 2016』に出場。2017年6月にEP『RUSH』を発表。ネット上の口コミなどで話題を呼び、iTunes R&B/ソウルチャートでは1位を獲得するまでになった。この夏は『SUMMER SONIC 2017』を始め、日本全国のフェスに駆け巡った。RIRIが憧れているのはビヨンセを筆頭とするUSのR&Bシンガーたち。世界で活動することを視野に入れており、前述の「RUSH」に関しても、英詞混じりの独特なリリックが話題になった。翌年2月14日に発売となる彼女のメジャーデビューアルバム『RIRI』は、そんなRIRIの志も反映してか、LAで制作され、海外プロデューサーも多く参加しているそうだ。アリアナ・グランデからチャーリー・ウィルソン、ジニュワインといったアーティストらの作品にも関わってきたデイモン・シャープ、そして、ビヨンセ「Drunk In Love」を始め、ティナーシェやテヤナ・テイラーら、まさに今をときめくUS R&Bのサウンドを作り上げてきたブライアン・ソーコらが、瑞々しくもドープなRIRIのサウンドを構築している。そして、アルバムに先駆けて発表された「RUSH」のリミックスを手がけるのは、気鋭のビートメイカーであるSeiho。これまでにUSでのツアーやフランスでのフェス出演なども果たしてきた、今もっとも世界基準に近いビートを繰り出すアーティストだ。「RUSH-Seiho Remix」は、原曲をしのぐ程の切なく甘いヴァイブスが溢れる圧倒的な完成度。ぜひ今のうちにチェックしておいてほしい一曲である。また、ついで先行公開される「Keep Up」はアグレッシブなダンスナンバーに仕上がっており、さらなるRIRIのポテンシャルを感じることができる。こうした疾走感溢れるトラックの上にボーカルを乗せる場合、思わずトラックの存在感の方が先走りしてしまうことも少なくないが(しかも、声の細い女性ボーカルの場合は特に)、RIRIはしっかりと自分のボーカルをコントロールし、タイトル通りトラックにキープアップしながらパワフルに歌い上げる。プラス、ここでもRIRIの持ち味とも言えるバイリンガルなリリックが光り、彼女のビビッドな言語センスにも驚かされるばかりだ。そういえば、RIRIのインスタグラムをチェックすると、だんだんキャプション欄にも英語のコメントが増えていたっけ。
筆者も今年のうちに二度ほどRIRIのステージを観る機会に恵まれたが、わずか数カ月の間にびっくりするほどスキル(そして佇まいも!)を上げ、改めて彼女の柔軟なスキルに舌を巻いた。海外でのレコーディングを経験するなど、今はとにかく新しいことにチャレンジし、ものすごい勢いで色んな事を吸収しているのではとも思う。アルバム『RIRI』を聴くと新人とは思えないほどの確かなボーカルスキルだけではなく、どんなビートも恐れずに乗りこなしていくRIRIの自信そのものが伝わってくる。無限の可能性がボーダレスに広がるRIRIの世界、いよいよ本格始動する時が来たようだ。
■渡辺 志保
1984年広島市生まれ。おもにヒップホップやR&Bなどにまつわる文筆のほか、歌詞対訳、ラジオMCや司会業も行う。
ブログ「HIPHOPうんちくん」
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blockFM「INSIDE OUT」※毎月第1、3月曜日出演
■リリース情報
『RIRI』
発売:2018年2月14日(水)
価格:¥2,300(税込)
収録内容:
1. RUSH
2. Next to You
3. That's My Baby
4. Heart Can't Lie
5. Crush on You
6. Be Alright
7. Keep Up
8. Promised Road
9. RUSH -Seiho Remix
10. I love to sing