TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDが語る、アニメ『魔法陣グルグル』劇伴の仕掛け

TECHNOBOYSが語る『グルグル』劇伴の仕掛け

「アニメの数ほど音楽のジャンルができる世の中になってる」 (石川)

ーー2期からはストリングスを使った楽曲も増えてきます。あらかじめ1期はブラス、2期はストリングスを多用していこうと決めてたんですか?

松井:2クールやるというのは聞いてたんですけど、原作の最終巻までやるとは聞いてなくて。だとしたら「終わらせる曲」がないと思って焦りました(笑)。

石川:そこでストリングスが登場するわけですね。ドラマチックに「ここで泣いてくれ!」という曲が多くなった気がする。

松井:あと、特殊な曲も多かったよね。ミュージカル曲とか。サウンドトラックには入ってないんですけど。

フジムラ:セリフも歌詞もあって、尺も決まっているものだったので、フィルムスコアを40過ぎのオッサン3人が読み合わせして。

石川:結果的に完成形が面白くなって良かったよね。絶対にあそこで感動させてやると思って作ってたから(笑)。わけがわからないけど、結果感動して終わるみたいな展開になったし。

松井:苦労の甲斐がありましたよね。途中までわけがわからなかったけど、最後のお化けのシーンぐらいから「何これ、ちょっといい話?」みたいな(笑)。

ーー(笑)。今回のアニメ『魔法陣グルグル』は、原作を2クールで消化するということもあって、スピード感のある展開が特徴的です。そのあたり、音楽面で意識することもありましたか?

フジムラ:そこまで意識はしてなかったです。1回目のダビングで映像と音楽が重なってるのを見て「早っ!」と思いましたけど、音楽もマッチしてたのでこのままで大丈夫だと確信しました。

松井:マッチしてたのは、メロディが多かったからだと思う。あれが普段の劇伴でやってるビート優先の曲なら、あのスピードに耐えられなかったような気がするな。

ーー展開のスピードが上がるアニメに対して、劇伴も変化を求められているように感じますか。

石川:他の番組を見てて、思うことはありますね。EDMやヘビメタだったり、その時々の流行り物の音が鳴ってるなと感じるので。でも、2010年を越えたあたりから、移り変わりが早いとかじゃなくて、全部が共存してると思うんですよ。だから、アニメの数ほど音楽のジャンルができる世の中になっている。

フジムラ:多様になってる世の中ですから、こうやって楽器を縛るサントラなんて滅多にないですよ(笑)。

ーー劇伴も主題歌も担当してみて、改めてグルグルという作品の魅力は何だと思いますか?

石川:僕らは大阪生まれなんですけど、あっちの子どものノリって「茶化し」なんですよね。人が真面目なことを真面目にやってるところを茶化す文化なんですよ。それがお笑いにつながったりもしてるんですけど。関東ってそんなことあんまりないじゃないですか。

フジムラ:茶化すと怒るもんね。

石川:でも、漫画の中にそれを感じたんです。

松井:感動的なシーンもギャグでバサッと切られるしね。

ーー確かに、真面目なテーマやメッセージが奥に潜んでるのに、それを笑いに置き換えて、良い意味で誤魔化そうとしている作品ですよね。

フジムラ:主人公のニケくんもそうですもんね。どうしてもカッコつけ切らないというか。

石川:それがグルグル哲学みたいな感じだよね。デリダとかラカンみたいな哲学者と同じキャラも出てくるわけで。

松井:ちゃんと何か言いたいことを全部書いて、それを自分で全部ぶっ壊していくっていう。子供向けに、柔らかくして消化しやすくしてくれてるのかもね。

フジムラ:大人と子供の描かれ方も独特ですよね。しかも、出てくる大人たちはしょうもなくて、どこか悲哀を感じさせる。自分らも年齢が近いのでシンパシーを覚えます。「大人になったからって、心まで大人になれると思うなよ」っていうのを示されてる感じもして。

松井:そういう色んな大人の描かれ方や哲学的な部分も面白いし、何より芯の部分でニケとククリの話がずっとブレてないのもいいですよね。話の筋は基本的にはククリちゃんに寄り添ってて、彼女の心の成長が1本の話になってるから、子供が純粋に見て影響を受けるアニメにもなっているんだと思います。

「(『グルグル』劇伴は)『キタキタミュージック』です」(フジムラ)

ーー松井さんに以前別ユニットでお話をお伺いさせていただいた時に、「後々答え合わせをして、そうだったんだと思うことが多い」と話して貰ったんですけど、TECHNOBOYSの3人の場合はどうですか?

松井:TECHNOBOYSは真逆かもしれないですね。20年以上一緒にやってるので、誰が何をするかなんてわかってるので、安心感だけでやってます。そこはもう友達感覚というか。

ーーだからこそ遠慮なく投げ合えるわけですね。

松井:遠慮なく投げ合ってるのは、時間がないからってことも多いけど(笑)。

ーースケジュール面でいうと、今年はかなり詰めすぎだったのでは?

松井:ヤバいと思ったのは初めてでしたね。俺、わかったんですよ。劇伴って意外とみんなに助けてもらってるんだなって。俺らって何故か、ガチでギリギリまで3人でやるんですよ。ミュージシャンを呼ぶこともほとんどなくて。

ーーそうですよね。普通の劇伴作家さんって、ある程度ミュージシャンの方を選んで、オーケストラも発注しているものですから。

石川:私は、1人でやるときもできるだけ呼ばないようにしている。

ーーそれは、自分でなるべく自己完結したいからという理由ですか?

石川:変わったもの(作品やアイディア)が来た時に時間がないでしょ? 対処しきれない。対処できる人がいればいいんですけど、それも自分でやっちゃう方が早いので。可愛いお弟子さんとかいればいいんですけどね。

松井:でも、これぐらい閉じないとうちらの音楽にならないんでしょうね、きっと。石川本人も言ってるんですけど、本当1人で作ってると楽みたいで。TECHNOBOYSだからこそしんどい部分がいっぱいあるんです。

ーーでも、面白い部分もいっぱいあるから続けてるわけですよね。

石川:今回面白かったのはフジムラくんですね。ファミコン世代で、ゲーム音楽やストーリータイプの音楽が染み込んでるから、ナチュラルにその世代感がある音楽が出てきてる。CDを買った皆さんは、フジムラくんの作った曲を当ててみてほしい。松井くんは……相変わらず素っ頓狂なものを作ってくるから(笑)。

フジムラ:「僕、個性的ですよ」みたいな感じが音楽に出てるよね(笑)。

松井:やらしい言い方(笑)!

ーー性格からくる音楽なんですね。

石川:本来劇伴をしないような音楽をしてきた2人が、自信のないままにやり続けてる音楽の妙を聴いてください(笑)。今回の『魔法陣グルグル』では、TECHNOBOYSが真っ裸にされましたね。

松井:あまりギミック的な音が使えないし、エレクロトニカみたいな音響的なものにもできない。着る服がないみたいな感じで。かなりキタキタオヤジに近い見た目にさせられた。40代の男たちが腰ミノだけでやってる感じは出てると思います。

フジムラ:そうそう、「キタキタミュージック」ですよ。

松井:アー写では、僕らいい感じのジャケット着てるかもしれないけど、下は腰ミノですから(笑)。

ーーそうやって色んなものをひっぺがされて、3人としての活動に新たなフィードバックもあったんじゃないですか?

フジムラ:単純に機材を触れる時間が長くなったことで、「こういう音が出るんだ!」という発見もあったので、今後には活かされてくると思います。

松井:なにより、年間で1番ハードシンセが増えたのも大きいですよね。迷ったら買う、くらいの感じだったので。誤解を恐れずにいうなら、これ単体では赤字になってるんじゃない(笑)?

ーーこれから取り返していきましょう。

(一同笑)

(取材・文=中村拓海)

『「魔法陣グルグル」オリジナルサウンドトラック Grugruppo Musicale』音楽:TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND

■リリース情報
『「魔法陣グルグル」オリジナルサウンドトラック Grugruppo Musicale』
音楽:TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND
発売:12月27日(水)
価格:¥ 3,564(税込)

<収録内容>
・DISC-1
01. 魔法陣グルグル・テーマ
02. 冒険の始まり
03. あの町へ
04. ククリの冒険
05. のどかなひととき
06. はじまる!
07. 永駿豪傑
08. 呆然
09. モンスター、現る
10. 憤怒
11. 一進一退
12. グルグル発動!
13. おっかない
14. 怪き老婆
15. キタキタ踊り
16. カーニバル騒ぎ
17. おはなししましょ
18. いざ行かん
19. こころのけしき
20. 妖精の国
21. アッチコッチドッチ?!
22. 勇者ニケ
23. 大地
24. 呑気
25. 大胆不敵
26. 祟り
27. 戦闘
28. 疾風怒濤!
29. 大陸へ
30. ナーバス
31. 深き悲しみ
32. 儀式
33. ニケとククリ
34. ふしぎ
35. あったかいキモチ
36. いいことあるかな?
37. やるべき事
38. タイトルコール
39. アイキャッチ1
40. アイキャッチ2
41. Trip Trip Trip (TV SIZE)
歌:ORESAMA
42.Round&Round&Round (TV SIZE)
歌:TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND feat.ボンジュール鈴木

・DISC-2
01. 威風堂々
02. 荒野をゆく
03. 何気ない会話
04. 桃源郷
05. 幸運なお色気
06. かわいいククリ
07. 上を下への大騒動
08. 遺跡にて
09. また、モンスター、現る
10. レイド様の登場だ!
11. 光魔法キラキラ
12. ニケくん、カッコイイ
13. キタキタ・カーニバル
14. 魔法
15. ククリの魔法
16. 異境の地
17. 不可思議な日常
18. わたしのうまれたところ
19. ひとりぼっち
20. グルグル経典
21. 気配
22. 旅する人
23. 少女のロマンス
24. 想い
25. いつまでも
26. 心
27. あくまでも
28. 悲劇
29. 悲愴のワルツ
30. 悲しみのトッカータ
31. 遭遇
32. 闇の魔王
33. 決戦
34. 神々の記したるもの
35. 旅路
36. 恋するハート
37. 勇者
38. アラハビカ
39. 伝・説 SILVER LOVE
40. 流星ダンスフロア (TV SIZE)
歌:ORESAMA
41. Magical Circle (TV SIZE)
歌:TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND feat.中川翔子
42. Round&Round&Round (REMIX)
歌:TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND feat.ボンジュール鈴木

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