小野正利が語る、25年の音楽人生とシンガーとしての変化 「今は歌そのものをしっかり歌いたい」
小野正利が、12月13日にデビュー25周年アルバム『VS』を発売した。
そのハイトーンボイスが高く評価され、1992年に発表した3rdシングル『You’re the Only・・・』が114万枚を超えるヒットを記録、その年の『NHK紅白歌合戦』にも初出場を果たした小野正利。その後もバラード曲を中心とした楽曲を歌唱してきたが、2009年にはヘヴィメタルバンドGALNERYUSに加入し、活動の幅をさらに広げた。アルバム『VS』では、マライア・キャリーやセリーヌ・ディオン、ボン・ジョヴィ、エルトン・ジョンといった往年の洋楽曲をカバーし、さらに多彩な歌を響かせている。
1992年のデビューから25年が経った今年、小野自身も50歳を迎えた。デビュー当時を振り返りながら、ポップスの歌い手からはじまり、GALNERYUSへの加入、ボーカルスクールのプロデュースなど、様々な立ち位置から「歌」に向き合ってきた25年、そしてその間の変化など、じっくりと語ってもらった。(編集部)
「この先も自分との戦いはある」
ーー25周年を振り返ってみていかがですか?
小野正利(以下、小野):あっという間でしたね。自分はこんな感じですから、まあ冗談2割本気8割で、威厳も何もないし、オーラも気配もないしって言ってるんですけど(笑)。結局は、この仕事も僕一人じゃなし得ないことですから。結果論的な言い方になりますけど、色んな人との出会いがあって、助けていただいてフォローしていただいて、25年経っても歌えてる。デビューした時は、漠然と50歳になってもロックがかっこよく歌えてたらいいなと思ってたのですが、実際にその状況になってみると、ここに至るまで色々なことがありましたが、今25周年、50歳でいい環境にいさせていただいて、ありがたいなと思います。
ーー音楽業界も含めて時代の雰囲気は大きく変わりましたよね。その中で歌い続け、こうして25年を迎えたことはすごいことだと思います。
小野:他に何もできないですからね(笑)。言ってしまえば、歌うのが好きで歌ってきてるというのが一番なので、音楽に特別精通してるかっていうとそうではない。今回のアルバムだって、どういうアレンジにするか、誰にアレンジャーを頼むか、ドラムは生でいくのか、誰に頼むのか、僕はそういうことは、かっこよく言えば「良きに計らえ」というか、あまりタッチしないんですよね。そういう意味でも、周りにアイデアをくれて支えてくれる人がいてよかったなと。
ーー今回のアルバム『VS』は具体的にどんなところから立ち上がったプロジェクトでしょうか。
小野:25周年の記念らしい動きをしましょうよ、と。僕としても、何か特別なことをやれればなと思っていました。
ーー2011年にリリースした『The Voice -Stand Proud!-』は、ハードロックメタルが選曲されていましたが、今回は歌唱法も含めて様々な音楽性が入った作品ですね。
小野:そうですね。『The Voice -Stand Proud!-』は、作り手としてはGALNERYUSのボーカルがソロアルバムを発表しました、というものでした。今回はあくまで、25年間ずっとポップスを歌ってきたソロの歌い手である小野正利がカバーをやりますということなので。あまりロックテイストの強い曲は選曲から外れるんじゃないかって思ってたんですけど、結果的には、男性曲の方にヴァン・ヘイレンの「Dreams」が入ったりとか。
ーー「Danger Zone」(ケニー・ロギンス)や、「Livin’ On A Prayer」(ボン・ジョヴィ)もそうですね。一方で、エルトン・ジョンの「Your Song」は、小野さんの声の柔らかい感じと非常に相性が良いなと。ボズ・スキャックスの「We’re All Alone」なども、ミドルテンポの美しい曲を見事に歌ってらっしゃるのがソロシンガー小野さんのひとつの姿なのかなと感じました。
小野:「Your Song」の<It’s a little bit funny>という出だしの部分は、自分でもよく歌えてると思う。あれ? なんかちょっと俺これイケてるんじゃないの? みたいな(笑)。レコーディングは曲数的にも大変でしたけどね。正直言ってしまえば、先ほど言ったように歌うことが好きで歌ってきて、学生時代も、先輩からこれを聞けと音源渡されたり、あるいはそんな歌い方ダメだ、この歌い手を見習えだとか言われてきたんですけれど、僕は自分から楽曲を深く掘って行ったりする人ではないんですね。それでも、当時のヒット曲は世の中に日常的に流れてて、積極的に聞きに行かなくても耳に入ってくる。ボズ・スキャックスもそのひとつですね、「Your Song」は今回初めて歌いましたし。
ーーでは選曲はスタッフのみなさんと一緒に?
小野:そうですね。あとは、ファンクラブイベントでファンの皆さんのリクエストを募ったので、その曲も入っていたり。僕も希望を出しつつ、スタッフさんにはじかれ(笑)。逆に僕は歌えるわけがないって言ったのに、スタッフの強い押しで「A Question Of Honour」(サラ・ブライトマン)が入れられてて。
ーーこれはすごいと思いました(笑)。
小野:僕からするとマライア・キャリー、セリーヌ・ディオン、ホイットニー・ヒューストンは手を出しちゃいけない人たち。日本で言ったら、たとえば美空ひばりさんやちあきなおみさんに手を出すようなもので、恐れ多いですから。でも、ホイットニーは1曲だけチャレンジしたい曲があるから、それならやってみたいと言ったら、結局マライアもセリーヌも歌うことに(笑)。でもレコーディングして形になってみると、今25周年で50歳で歌ったこのテイクがこういう形に残せてよかったなと思います。今時のレコーディングの仕方からすると考えられないですけど、マライア・キャリーは歌を録るのに4時間かかりましたからね、もう泣きべそかきながら(笑)。それがレコーディングの初日だったから、先が思いやられるなと思いましたけど。
ーーいやいや。今でもしっかり声が出るなという実感は、ご自身でも感じられたんじゃないですか。
小野:いやぁ、どうなんでしょうね。オリジナル通りに歌おうとは思ってないですけど、曲をまず覚えるために聞いてると、だんだん腹立ってくるんですよ(笑)。原曲のテイクのようにいかなかったり、「この節回しとか、俺にはできねーよ」って(笑)。今回曲によってアレンジャーも違うので、その時々でレコーディング現場でディレクションしてもらって。やはり人によってはディレクションの仕方が違って、「小野さん、それ確かにオリジナルそうだけど、別にいいじゃないですか、小野さんが歌ってるカバーなんだから」と言われて「そうかそうか」とやった時もあれば、僕が「ここはこうやってみようかな」って歌ったら「そこは、原曲通り歌ったがいいんじゃないですかね」と言われ「じゃあそうしてみます」という時も。
ーーアレンジャーの方の個性もあったということですね。
小野:はい。ここだけは外せないっていうのは、もちろん僕もあるんですけど、25年歌ってるとかっこよく言えば自分の歌い方が定まってるんですけど、悪く言えば硬直化して他の工夫ができなくなったり、自分でいつも工夫しようと思いながらも案が浮かんでこなかったりするんですね。だから、今回はなるほどってその度に納得しながらやってましたけど。でも、曲よっては何時間もかけたり、どハマりしながらレコーディングしましたね。
ーーそのように向き合ったり戦ったりというのが、『VS』(ヴァーサス)というタイトルにも表れてるんですね。
小野:そうですね。まあ25年で、区切りがいい年ではありますが、僕もこの先歌っていきたいと思っていて、この先も自分との戦いもあるだろうし、この先も見据えたタイトルになりました。