アルバム『ハレルヤ』インタビュー
川村結花が語る、Dr.kyOn・佐橋佳幸との制作風景「子供に戻って音楽を楽しんでいる極上の時間」
日常の感覚をずっと大事にしていきたい
ーーああ、なるほど。「夜の調べ」なんかはまさにそんな感じですね。とはいえこの曲は昭和歌謡的なニュアンスも多分にあって。
川村:そうそう。私、園まりさんの「逢いたくて逢いたくて」が大好きで。あと服部良一さん作曲の「胸の振り子」とか、ああいう昭和のテイストがものすごく好きなんです。自分のなかでは“園まり系”って呼んでいるんですけど。チェット・ベイカーなんだけど園まり、みたいな(笑)。そういう曲を3年にいっぺんくらい作りたくなって、ちょうどその3年目だったんですね、きっと。
ーーこの曲「夜の調べ」のなかに、〈夜は越えてくものとか 朝は勝ち取るものとか いいかげんそうゆうの もういいんじゃない〉という一節があって、その言葉の重みが川村さんと近い世代の自分にはグッときました。こういった境地に至ったのはいつぐらいだったんですか?
川村:40を過ぎてからです。いろんな考え方があるんだから、ひとつの考え方に拘らなくていいじゃないかって思えるようになったというか。若い頃は“ここを越えないと私、自分のことを許せない”みたいなことがいっぱいあったんですけど、いまは“越えられないんだったら越えなくてもいい”“越えられないってことは、そこに何か意味があるんだ”って受け取れるようになった。経験値があがって多角的にものを見れるようになったんだと思うんです。歳をとって厚かましくなったのかもしれないですけど(笑)、そういう見方をする自分に対してOKが出せるようになった。“道はひとつじゃなくてええやん”って言えるようになったってことだと思いますね。それと単純に体力もどんどん落ちてくるので、そうそう走り続けてばっかりいても着く場所に着かないっていうのもあって。
ーーこの曲の歌詞にある通り、〈ゆるらりと なされるままに〉いけばいいんだと。
川村:はい。
ーー歌詞は〈戦いはここらでやめましょう〉と続きますが、これ、本当にそう思います。
川村:“何にそんな戦ってんの? 自分、どんだけできると思っとったん? あほちゃう?”って。そういうふうに思えたら、逆に自分に対して優しくなれるんですよね。
ーー世の中もどんどんギスギスして閉塞感でいっぱいになっていってるわけですが、〈わからない答えなら しばらくはもう ほっといて〉と歌われるこういう曲を聴くと心が落ち着く。こういう曲がここにあることがとても嬉しく感じられます。
川村:ありがとうございます。
ーージャジーといえば、「ロウソクの灯が消えるまで」もスウィングしてていいですね。サックスプレイヤーの田中邦和さんとのデュエットに、これまた昭和っぽいステキさがある。
川村:本当に。これ、邦和君にとっての歌手デビューなんですよ。歌を録音するのは、これが初めてという。私と邦和君のふたりでやっているライブシリーズがあるんですけど、一昨年くらいに「ちょっと歌ってみたら?」って言って、ほかの曲を一緒に歌ってみたりしてたんです。それがよかったので、“じゃあ、今度こういう曲があるから、ちゃんとデュエットしてみよう”と誘って。もう、ノリノリで歌ってましたね(笑)。しかも吹き語り。マイクを二本立てて、彼はサックスを吹きながら歌っているんです。
ーー〈ロウソクの灯が 消えるまで 歌い続けよう〉〈夢は続いていく 歌も続いていく〉。川村さんの歌詞のなかでは、“歌”“夢”“人生”についての思いをかなりハッキリ歌ったものですよね。
川村:はい。昔、私がちょっとへこんでたときがあって、そのときに白井良明さんがメールをくださったんです。“僕たちの仕事というのはロウソクの灯が消えないように心に灯していくようなことだったりするんだよね”みたいなことが書かれてあって、その言葉にものすごく励まされた。その言葉がずっと心に残っていて、いつか曲にしたいと思っていたんです。それで、3年前くらいに良明さんとふたりでライブをやらせていただくことになって、そのときにこの曲を書いて。そのあとは邦和君とやってるライブシリーズでずっと歌ってきたので、今回もその形でレコーディングしようと。
ーー人生や音楽の歓びが楽器の音や歌にそのまま表れているという印象です。
川村:「いっせーのせ」で最初にやったテイクがこれなんですよ。ワンテイク。あっというまでした。
ーーほかの曲もそんなにテイクを重ねてない?
川村:はい。
ーーちなみにレコーディングは何日で?
川村:4日です。ギュッと集中して。
ーーすごい! アルバムタイトルの『ハレルヤ』は、レコーディングが終わってから出てきたものなんですか?
川村:いや、これはもうわりと最初からそういうものがいいなと思っていて。“なんとか・オブ・ライフ”みたいなものじゃなくて、あっけらかんとしたものがいいなと思っていたんです。なおかつ、ハッピーなものがいいなと。で、レコーディングが終わってからおふたりに「このタイトル、どうですかね」って相談したら、「いいね!」ってことで。
ーーハレルヤは、言ってみれば「乾杯のうた」で歌っている内容を凝縮したような言葉ですよね。〈よくぞ今日まで わたしたち 生き抜いて来たよね〉……乾杯! ハレルヤ! というような。
川村:そうですね。あとなんか、友達とも最近よく話すんですよ、「これからはもう、ちっちゃい幸せを積み重ねて生きていたいよね」って。「そんなに大きなことがなくても、今日また会えたっていうだけですでに幸せやんなぁ、うちら。ハレルヤやんなぁ」って(笑)。だんだん歳をとっていくと、そういう気持ちになっていって。
ーーゴスペルで言うところの歓喜の「ハレルヤ!」というよりは……。
川村:もっとフワっとした感じですね。日常の感覚というか。でもやっぱりそれをずっと大事にしていきたいんですよね。
(取材・文=内本順一)
■リリース情報
『ハレルヤ』
発売:2017年11月8日(水)
価格:¥2,385(税込)
1. カワムラ鉄工所
2. 夜の調べ
3. かたづけようちゃんとしよう
4. 乾杯のうた
5. 猫の耳たぶ ※NOKKOへの作曲 提供曲
6. ロウソクの灯が消えるまで
7. その先は?
8. 愛だけしかない景色
■ライブ情報
『川村結花 ツアー2018「独奏」 -ハレルヤ-』
1月19日(金) 大阪・Music Club JANUS
1月20日(土) 京都・SOLE CAFÉ
1月26日(金) 札幌・KRAPS HALL
1月27日(土) 札幌・くう -20丁目で逢いましょうアゲイン-
2月4日(日) 横浜・モーション・ブルー・ヨコハマ Guest:田中邦和(sax,vo), 柴草玲(vo,pf)
『GEAEG RECORDS設立記念 Darjeeling&川村結花 スペシャル・トーク&ミニライブ』
日時:11月18日(土) 15:00スタート
会場:タワーレコード新宿店7F イベントスペース(観覧フリー)
内容:トーク&ミニライブ、CD購入者サイン会