ベストアルバム『BEST THE BACK HORN Ⅱ』インタビュー
THE BACK HORNが語る、紆余曲折の歩みと未来「人生と照らし合わせることができるタイミング」
誰かとつながりたいから歌ってた(山田将司)
ーーそうやって自分たちらしささえブチ壊しながら拡張し、更新しながら歩んできたわけですね。ここから歌の話をしたいんですけど、将司さんにとっては「なんでこんなに叫び続けるんだ」ってことが積年の思いだったと思うんですよ。で、去年札幌で弾き語りをした時、たまたま終演後にじっくり話す機会があったから、「今、なんで歌ってるんですか?」って訊いたじゃないですか。
山田:亮介(a flood of circle/佐々木亮介)とミホちゃん(Drop’s/中野ミホ)とやったやつだ。
ーーそうそう。でもいまいち答えてくれなかったんです。で、その時は答えなかったのに、今年のこどもの日に答えっぽいことを普通にツイートしてて、マジなんなんすかって思いました(笑)。
全員:はっはっはっは!
山田:なんて書いたっけ?(笑)。
ーー「何度も身体を傷付け、何度もチカラを貰い、何度も立ち直り、何度も何度も叫ぶ歌い手人生。身体がどんだけ歳とっても、音楽に運命もってかれたこの心は、ずっと子供のままです。せめて生きていられるなら、いつまでも叫び続けたい。なんて思った今日。歌い手の皆さんお疲れ様です」と。そういうことをMCでも言うようになってますし。
山田:叫ぶって、別にスイッチ1個で叫べるわけじゃないから、感情を無理やり引っ張り出さないといけないし、ずっとそれを続けてると苦しいんだけど、それがもうTHE BACK HORNの主流になってきてて。それをやるっていうスイッチが自分でも自然に入るようになった。どんだけ空っぽの状態でも、穏やかな状態でも叫ばなくちゃいけない。俺はそこから逃げたいと思ったこともあるんだけど、やっぱり逃げはしなかった。まあほんとに昔は、俺がこんだけ叫べば誰かが俺のことを許してくれるんじゃないか、みたいな気持ちになってた時もあったけど。でも同時に、誰かがこの叫びに共感して救われるんじゃないかっていう気持ちもあったから。もちろんそれで実際THE BACK HORNを好きになってくれた人もいると思うし。でもその根っこにあるのは、なんで俺は歌を歌いたいのかと思ったら、自分が歌に救われてきた人間だから。それはほんとバラードでも何でもよくて。どちらかと言えばバラードのほうが好きな人間だったし。
ーー弾き語りのセットリストはそういう曲調も多いですよね。
山田:うん。そのバラードの延長に叫びがあって、THE BACK HORNの表現があってっていう。そういう解釈で叫ぶし、ただ投げっぱなしにはしたくないから、さっき言ってくれた泣ける感じっていうのは、そこを受け取ってくれたのかもしれないけど。そこは絶対に忘れたくはないなと思う。
ーーにしてもまだ苦しい部分もあるのかなって。
山田:フィジカル的なとこではやっぱ付き物だから。パチンコの確変じゃないからずっと当たりっぱなしの状況が続くわけでもないし、いい時もあれば悪い時もあって。いい方に持っていく努力もしながら、でも努力ばっかしてると疲れちゃうっていうのもわかったし。その辺は気持ちで解決できるところと、気持ちだけじゃ解決できないところと、時間をかけてフィジカル的に解決していくところ。全部いろいろあるけど、別に何も諦めてることはない。自分の中でバランスの取れた努力はする。まだね、THE BACK HORNで歌っていきたいと思ってるから。
ーーもっと精神的なところではどうです?
山田:痛みとか苦しみってね、結局慣れちゃうじゃないですか、誰でも。それと同時に、それとは反対にあるものも経験してきて。自分の意志による問題の苦しみであれば、自分が作り上げた苦しみであれば、苦しむのをやめることはいくらでもできるっていうか。そこから目を背けることが、逃げるっていうことだと思ってて。五体満足の身体なのに俺は逃げてどうすんの、逃げた先に何をするんだ、みたいな気持ちにはなるよね。まさに震災が起きた年にはほんとそう思ったし。
ーー逃げないっていうことなんですね。
山田:ね〜、まあ逃げてることもいっぱいあるけど(笑)。でも何なんだろうね、結局歌いたいんだろうね。
ーー昔は自分が生きるためには叫ぶしかない、みたいな感じがあったようにも見えたんですよ。
山田:たぶんね、俺は生きるために歌ってたんじゃなくて、誰かとつながりたいから歌ってたんだと思う。歌い始めたきっかけもそうだし。
ーーじゃあ今はそれをそのまんま表現できるようになってきたということ?
山田:そういうことだと思う。
ーーお客さんや周りの人とつながってパワーを貰い、それを受けて歌い、その歌に聴き手は救われ、またつながりが深くなる。そうやって歌い続けていきたい。で、それが生きていくこととイコールになってますよね?
山田:そうだね。また今、そう言えるかもしれない。
ーーだから歌の説得力がものすごくあると思うんです。今の歌詞って、生きていくことを歌ってるじゃないですか。それがあなたとともにみたいなニュアンスになったら「With You」や「あなたが待ってる」になって、もっとギラつくと「その先へ」とか「孤独を繋いで」になる。
山田:うんうん。まあその根っこは、1stの頃みたいな、自分だけの世界っていうパーソナルな部分、そういう人間の奥底から勝手に出てきてしまう感情で。それを忘れたくないなっていう気持ちはありますね。それがあって他者がいて、つながることができるっていう。それを忘れると自分の出す声がどんどん嘘っぽくなる。カッコいいものができなくなっちゃうんじゃないかっていう不安も出てくるし。
ーーそこを忘れないから当時の曲もブレずに歌えるし、つながる感覚もよりあたたかく表現できるんでしょうね。
山田:それが深みってやつなんでしょうね。