サカナクションが開拓した音楽体験の新しさ “チーム”の集大成見せた6.1chサラウンド公演
この日のライブにおいて特に驚かされたのが、サカナクションのメンバー5人で合唱するパートがある「Aoi」や「SORATO」が演奏された時だった。男女混声による合唱は、どこかゴスペルのような壮大さと神聖さを携えていた。その合唱のパートが、サカナクションのオリジナリティを決定づける、ひとつの要因とも言えるだろう。「6.1サラウンドシステム」により、360度を重層的な声に取り込まれるような感覚は、これまでに味わったことのない刺激的な体験だった。
またアンコールの「サンプル」では「Team Sakanaction Sample」の文字とともに、PAの佐々木幸生氏(Acoustic)をはじめとしたチームのメンバーたちの手元を映し出し、それぞれの音がどう鳴っているのか、その正体を明かしていた。裏方を含めた数多くのスタッフたちの力、そしてチームワークの良さによって今のサカナクションのライブは完成されている。
プロフェッショナルなスタッフが揃ったチームと高品質な音響を従えてライブをやる必然性を、今のサカナクションは持っている。バンドを実際以上に誇張したり、大きく見せるのではなく、サカナクションというバンドの姿勢や曲のスケール、そして山口一郎、岩寺基晴(Gt)、草刈愛美(Ba)、岡崎英美(Key)、江島啓一(Dr)の5人によるアンサンブルと歌のタフさがしっかりと確立されているからこそ、テクノロジー的に進化させたとしても、「音楽」という軸がぶれることなく、これほどのライブ体験を提供することができるのだろう。冒頭に述べたように、サカナクションは、日本の音楽シーンではまだ誰もやったことのない、先鋭的な取り組みに積極的に挑戦してきた。そしてそのひとつひとつは、点在するのではなく、しっかりと結びつき互いに共鳴し合っている。
来年にはニューアルバムを発表することが山口の口から明かされたこの日のライブ。デビュー10周年のその先で、サカナクションはどんな新たな音楽体験をもたらし、我々を楽しませてくれるのだろうか。
(取材・文=若田悠希/撮影=石阪大輔(Hatos))