アルバム『ナイトライダーズ・ブルース』インタビュー
高田漣が語る、ルーツミュージックとの向き合い方「舶来の音楽をどうやって日本語で表現するか」
新しい音でやりたいという気持ちがあった
ーー楽曲についても聞かせてください。まず1曲目の「ナイトライダー」。長岡さんのギターソロの前の「間奏!」という掛け声は、はっぴいえんどの「はいからはくち」のオマージュですよね?
高田:そうですね(笑)。デモを作ったときに「ここからギターソロです」とわかるようにしたいと思って「間奏!」って入れてたんですけど、それをそのまま残して。「ナイトライダー」は今回のアルバムの音作りの基準になっている曲なんです。レコーディングエンジニアの関口正樹くんとも以前から話をしていたんですが、ブルースをテーマにしつつも、渋いアルバムにはしたくなかったんですよね。たとえばG. Love & Special Sauceの1st(『G. Love & Special Sauce』/1994年)、Soul Coughingの1st(『Ruby Vroom』/1994年)のようなサウンドでやりたくて。ああいう感じのドラムの音とウッドベースがガツンと前に来るような音像にしたかったんです。
ーーオーセンティックなブルースやジャズを感じさせながら、音自体はハイファイというか。G. Love & Special Sauce、Soul Coughingもレイドバックした音ではなかったですよね。
高田:そうですね。「ナイトライダー」の冒頭のドラムパターンは、G. Love & Special Sauceの曲とまるっきり同じなんですよ。大地くんには「この通りに叩いて」、関口くんには「この音で録って」とお願いしたので。もちろんまったく同じにはならにないんですけど、やりかったことが出来た感覚はありますね。G. Love & Special Sauceの1stは〈オーケー・レーベル〉という老舗のブルース・レーベルからリリースされていて、だからこそああいう新しい音を提示することに意味があったと思うですね。今回の僕のアルバムはベルウッド・レコード(1972年に設立された老舗レーベル。高田渡、はっぴいえんど、はちみつぱい、あがた森魚、友川カズキなどの作品をリリース)から出させてもらうんですが、やっぱり“はっぴいえんど”や“はちみつぱい”と同じような音ではおもしろくない、新しい音でやりたいという気持ちがあって。だからこそ、長岡くんのギターが良かったんです。ちゃんとルーツは持ってるんだけど、エッジが立っているというのかな。共演するのは今回が初めてだったんですが、素晴らしいギターを弾いてくれましたね。彼も一筆書きの人だから、ガーッと弾き倒して帰っていきましたけど(笑)、すごくカッコ良かった。
ーー2曲目の「ハニートラップ」も、ブルース的な渋さとは真逆のめちゃくちゃ明るい曲ですね。
高田:「ハニートラップ」というタイトルと、女性に騙される男の歌というアイデアは2〜3年前からあったんです。その後、スウィングっぽい曲に取り組んでいるときにすごく明るい曲が出来たから「これは“ハニートラップ”の歌詞が合うな」と思って、バクバクドキンのYUIちゃんにコーラスをお願いして。ホーンセクションを含めた演奏も素晴らしいし、すごく気に入っています。この曲はPVも撮ったんですけど、いろんな人が“ハニトラ、ハニトラ”って歌ってるのがおもしろかったんですよ。アルバムが大ヒットしてみんなが“ハニトラ、ハニトラ”って口ずさめば、世の中の問題もちょっとは良くなるかもしれないですね(笑)。
ーー「Ready To Go 〜涙の特急券〜」は高田漣さん、伊賀航さん、伊藤大地さんのトリオで演奏されています。
高田:1曲は3人だけでやりたかったんですよ。この曲の歌詞は、伊賀くんの実際にあった話がもとになっていて。ツアー先に向かうために新幹線に乗ったら、「そこ、俺の席なんだけど」と言われて、乗車券をよく見てみると、移動日は翌日だったっていう(笑)。その話を伊賀くんから聞いたのは細野さんのツアー中だったんだけど、その話があまりにもおもしろくて「いつかこれを歌にしたいな」と。音楽的にはまさに昔のシカゴブルースのスタイルですね。当時のブルースマンは高価なエレキギターが買えなくて、アコギにピックアップを付けて演奏していて。そのスタイルに近い取り方で録ってるんです。かなりマニアックな演奏だから、歌詞まで渋くなるのは良くないなと思って、伊賀くんの話を歌にしたというところもありますね(笑)。
ーー“ちょっとおかしい話”を歌にするっていうのも、ブルースのスタイルのひとつかも。
高田:そうですね。これは自分の性格かもしれないけど、何かオチがないと歌にしちゃいけない気がするんですよ(笑)。ランディー・ニューマンの歌にもそんなところがあるし、落語の影響などもあるかもしれないですね。
ーーインストナンバーの「Sleepwalk」、そして「文違い」にはTIN PAN(細野晴臣/鈴木茂/林立夫)が参加。この2曲でTIN PANとセッションしたのは、どういう理由だったんですか?
高田:特に理由はないんですけど、後輩なりの気づかいと言いますか(笑)、あまり難しかったり、構成が複雑な曲じゃないほうがいいかなと思いまして。「Sleepwalk」はカバー曲なんですが、以前、茂さんと演奏したことがあって。細野さんも立夫さんもこの曲をご存知だったので、ぜひ一緒にやりたいなと。「文違い」はシンプルな8ビートが中心なんですが、TIN PANだったら洒落た感じにしてくれるんじゃないかと思ったんですよ。もともとは94年くらいのジム・オルークみたいなちょっと壊れた感じをイメージしていたんですけど、TIN PANの演奏でカラッとした雰囲気になりましたね。
ーーTIN PANにしか出せないグルーヴ、サウンドのイメージがありますからね。
高田:特に「文違い」の洗練された演奏は、TIN PANならではだと思います。スタジオで茂さんとも話をしたんですけど、TIN PANのサウンドは3人の方々の信頼関係のうえに成り立ってるんですよね。一緒に演奏していても、みなさんの船に乗せてもらってるような感覚があって。すごく貴重な体験でした。茂さんのギターソロ、スライドギターも本当に素晴らしくて。茂さんが帰った後、何度も聴きました。長岡くんに対してもそうですけど、僕自身がギターのファンだから、好きなギタリストの最高のプレイを聴きたいという気持ちがあって。「その人が本領発揮できるような曲でお願いしたい」というのは意識してましたね。