森山直太朗が15周年の節目に体現した“これまで”と“これから” ツアー『絶対、大丈夫』を観て

森山直太朗15周年記念ツアーを観て

 2016年9月、デビュー15周年記念オールタイムベストアルバム『大傑作撰』をリリースし、アニバーサリーイヤーに突入した森山直太朗。翌2017年1月からスタートさせた全国47公演にわたるロングツアー、森山直太朗 15thアニバーサリーツアー『絶対、大丈夫』が7月29日、NHKホールでファイナルを迎えた。

 セミファイナルとなった28日。この日の本編では、ベストアルバム『大傑作撰』の楽曲を中心に全19曲が披露された。『大傑作撰』の初回限定盤は、森山の活動を名実ともに支えてきた15曲による「花盤」と、森山の知る人ぞ知る名曲を集めた「土盤」の2枚組で構成されている。MCで森山はこの2枚を「光と影」と表現していたが、その対比は楽曲のパフォーマンスの違いとしても示されていた。

 まず、「花盤」に収録され、オープニングを飾った「嗚呼」。ステージ全体を覆った紗幕に映された広大な宇宙に一筋の光が差し、幕の裏側にスタンバイした森山の姿が透ける。ピアノの音色に合わせてはじまった「嗚呼」の独唱は、驚くほどに美しい。宇宙空間に桜の花びらが舞い、流れゆく自然の景色。音から想像するようなイメージが目の前に次々と映し出され、伸びやかで力強い歌声が会場中に響き渡った。

 幻想的なオープニングを終えると、紗幕が下りて雰囲気は一変。観客は総立ちで森山とバックバンドたちを迎え入れる。続けて「魂、それはあいつからの贈り物」「夕暮れの代弁者」が歌われた。森山はステージ全体を練り歩き、(“後で電話する”といった身振りなど加えながら)観客たちに目線を送ったり、パントマイムのようなコミカルな動きを見せたり、さらには小気味のいいリズムで踊りまくる。森山のエンターテイナーぶりが遺憾なく発揮されたパートである。と同時に、これらは「土盤」に収録されていた2曲でもあった。

 「花盤」収録曲ではシンプルに歌声の良さ、楽曲の素晴らしさを届けることに注力し、「土盤」収録曲ではリミッターを外して表現の幅を追求する。真っ当なシンガーとしての姿が「花盤=光」であるとすれば、その上で欠かせない要素ともなる自由な視点や感情表現が「土盤=影」ということか。

 「花盤」収録の「太陽」「風花」「フォークは僕に優しく語りかけてくる友達」といったミディアムナンバーでは、ファルセットやサポートメンバーとのコーラスワークを堪能することができ、言葉の一つ一つが丁寧に歌いあげられている様を改めて感じ取ることができた。その後の、夏の夕暮れの景色が浮かんでくる「夏の終わり」、渾身の歌を披露した「生きてることが辛いなら」もしかりである。「生きてることが辛いなら」を歌い終えた後、深々とお辞儀をする森山の姿はとても印象的だった。

 一方、壮大な音像からは予想もできない言葉をのせた「うんこ」、後半戦に披露された「よく虫が死んでいる」や「坂の途中の病院」ではシニカルかつシュールな森山直太朗ワールドが炸裂。「よく虫が死んでいる」では観客によるタオル回しが行われていたが、会場中に虫がいるという設定でタオルを回させるというユニークな動機づけも森山ならではだ。

 『大傑作撰』をリリースする前、森山は一時“活動小休止”の期間を設けていた。その当時の話を突然真剣に語りはじめたかと思いきや、いきなり笑い出し、「MCがかっこよくなりすぎちゃった」と恥じらいを見せる場面も。そして、「自分を導いてくれたのは新しく生まれた音楽だった」と言い、宇多田ヒカル「First Love」の編曲などで知られる河野圭との出会いの大きさについて語る。河野は今回のツアーにもバンドマスターとして帯同しており、彼がプロデュースを手がけたのが、活動再開後初の作品となったアルバム『嗚呼』だ。森山は同作の中から「より思い入れの深い曲」と紹介し、「とは」「金色の空」を歌う。活動小休止中に制作されたそれらの曲からは、当時の森山の姿が浮かんできた。

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