エイベックス、ブルーノ・マーズと全世界音楽出版管理契約の背景は? ジェイ・コウガミ氏に聞く
エイベックスが本格的な海外展開に乗り出している。7月27日、ブルーノ・マーズとの全世界音楽出版管理契約の締結を発表したのだ。ブルーノ・マーズが同社の第一弾出版管理契約アーティストとなり、今後も契約アーティストは増えていくと考えられる。そこで今回、海外の動向にも詳しいデジタル音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミ氏に、エイベックスの今後の展開やこれからの音楽出版社のあり方について解説してもらった。
「日本の企業が、海外アーティストの出版管理の権利を獲得するというのはとても珍しいケースだと思います。特にブルーノ・マーズのようにすでにグラミー賞を獲得し、グローバルでのプレゼンスを持っているアーティストと契約したのは大きな意義のあること。日本の音楽業界にとって明るいニュースではないでしょうか。今回エイベックスがブルーノとの契約締結に至ったのには、2016年に同社が出した『成長戦略2020』という経営戦略のマニフェストの中で『海外戦略』と『新しいヒットコンテンツを創出する』ということを戦略の中心として掲げていることが影響しています」
今回のエイベックスとブルーノ・マーズとの契約は、CD販売以外にもチャネルを持つエイベックスの強みをもって成立したものであるとジェイ氏は指摘する。
「今は新しいコンテンツやヒットを作る、というのはCDだけでは難しい時代になっています。他でどうマネタイズしていくか、現代の“ヒット”とは何か、と考えていくと、CDだけでなくライブ、アニメ、デジタルなど様々なプラットフォームを持っているという部分でエイベックスには強みがある。エイベックスは“アーティストサービスカンパニー”という位置づけでもあって、単純に音楽を売る組織ではありません。例えばブランドと提携してビジネスを作ったり、キャンペーンを行なったりする中で、どうアーティストの楽曲をライセンスしてマネタイズするか、ライブやフェスを主催してその中でどう楽曲を使うか、どのようにアーティストを組み込むかということにグループ全体で取り組んでいます。今後は社内での横の連携がより強くなっていくと思います」
さらにジェイ氏は、「海外のレーベルは一足先にこのような動きに乗り出している」と語り、ワーナーミュージックやソニーミュージックなどの取り組みについても解説する。
「例えば、ワーナーミュージックには、アーティストと一緒にどうやってキャンペーンやグッズ、ツアー戦略、ファンクラブを作るか、というマーケティングやデータ分析を包括的に扱う『アーティストサービス部門』があります。こういったビジネスを皮切りに、海外のレーベルがアーティストに対してレコーディング契約以外での付加価値を提供する流れは今後も増えていくでしょう。音楽出版はグローバルな視点で見ると、市場や業界の中での再編がとても速いスピードで進んでいるんです。2016年にはソニーミュージックが業界最大手のソニーATVミュージックパブリッシングを完全子会社化する大きな再編があり、またブルース・スプリングスティーンやジャック・ホワイト、ZEDDのようにヒット曲を提供できるアーティストを競争で契約して、世界的な権利を獲得するという動きが大手の音楽出版社では活性化しています。一方インディペンデントな音楽出版社も活発に動いていて、アメリカやヨーロッパで人気のミュージシャンが揃うDowntown Music Publishingは、今年に入ってOne Directionのナイルと契約しています。同社は日本ではエイベックスとパートナーを組んでいるので、今後一緒に戦略を立てていくことになるでしょう」