アルバム『LOVE YOUR LOVE』レビュー
LOVE PSYCHEDELICOは“普遍性と新しさ”を同時に奏でる 温故知新のソングライティングを読む
LOVE PSYCHEDELICOのデビュー曲「LADY MADONNA ~憂鬱なるスパイダー~」(2000年4月リリース)がラジオ(『J-WAVE』)から聴こえてきた瞬間のことは、いまもハッキリ覚えている。ギターリフを軸にしたオールドスタイルなロックンロールでありながら、アシッドジャズやテクノを好んで聴いていたリスナー(筆者)にも気持ち良く響くサウンド。英語と日本語がナチュラルに混ざり合う歌詞。大げさな感情の発露を抑え、凛とした佇まいを感じさせるボーカル。古さと新しさ、洋楽と邦楽、ロックとポップが絶妙なバランスで混ざり合う、一度も聴いたことがないのに、ずっと昔から存在していたような手触りを持った楽曲は多くのリスナーの興味を集め、LOVE PSYCHEDELICOの名前は瞬く間に音楽ファンの間で共有された。シングル曲「LADY MADONNA ~憂鬱なるスパイダー~」「Your Song」「Last Smile」を収めた1stフルアルバム『THE GREATEST HITS』(2001年1月リリース)は160万枚を超えるセールスを記録。「リフのある音楽、ロックミュージックを渋谷の街を歩いている普通の女の子にも届けたい」(NAOKI)というビジョンは、デビューから1年足らずで現実のものとなった。
あれから15年以上が経った現在も、LOVE PSYCHEDELICOはベーシックな音楽スタイルを変えてない。それを端的に言えば“ルーツに根差したオーセンティックな楽曲”そして“時代のトレンドとリンクしたサウンドメイク”ということになるだろう。
KUMI、NAOKIがお互いに作詞・作曲を手がけ、共同作業で行われるソングライティングには、“温故知新”という言葉がよく似合う。新しい音楽を取り入れながら新陳代謝を行うのではなく、ロックンロール、カントリー、ブルース、フォーク、ブルーグラスなどのルーツミュージックを掘り下げ、そのなかで得た(2人にとっての)新しい感覚を楽曲に反映させ続けているのだ。そのスタンスはニューアルバム『LOVE YOUR LOVE』でもまったく同じ。「Good Times,Bad Times」をきっかけに“リフに頼らず、コードとメロディでソングライティング”へと移行してるが、この新たなスタイルもまた、ルーツにしっかりと根差している。デビュー時から繰り返している「後に残るのは自分たちの名前ではなく、楽曲」(NAOKI)という発言とも関連しているが、ルーツミュージックに対するリスペクトは2人にとって、オリジナリティや新しい音楽スタイルを生み出すことよりも大切なのだと思う。
もちろん制作の過程においては、様々なトライ&エラーがあったはずだ。本作『LOVE YOUR LOVE』のインタビューでNAOKIは、これまで発表してきたアルバムの変遷について語ってくれたが(参考記事:LOVE PSYCHEDELICO NAOKIが語る、“理想の音”を追求する制作スタイル「匿名性を大切に」)、その都度2人は「次の作品はどうするべきか」「LOVE PSYCHEDELICOはどうあるべきか」という課題と向き合ってきた。多くのアーティストの場合、そのプロセスのなかで“あれは過渡期だったんだな”という作品を発表するわけだけだが、LOVE PSYCHEDELICOにはそれがない。実験のための実験ではなく、2人のなかで明確な答えを出してから制作に取り掛かるため、いつも軸がブレないように見えるのだ。