小野島大が選ぶ、エレクトロニック・ミュージックの“知られざる”新作9選

 2カ月ぶりのご無沙汰でした。今回もエレクトロニックな音楽の新作から挙げてみます。この時期であればコーネリアスの新作『Mellow Waves』(6月28日発売)も圧倒的に素晴らしい傑作なんですが、ここではもっと知られざる作品・アーティストを紹介しましょう。

ジェイリン、ラムサ、ローレル・ヘイロー……小野島大が選ぶ知られざる洋邦新譜9選の画像1
ジェイリン『Black Origami』

 2年前のファースト・アルバムが大きな話題を呼んだジェイリン(Jlin)のセカンド・アルバム『Black Origami』(PLANET MU)が早くも登場。ジューク/フットワークの大将RP・ブーの愛弟子という触れ込みながら、師匠を超える圧倒的なオリジナリティをデビュー時に早くも確立していた才女が、セカンドでさらに飛躍。いったいナンダコリャ、と言いたくなる奇妙キテレツな、変則に次ぐ変則なアフロ・トライバル・ミニマル・ビートはクセになります。師匠のようなダーティな荒々しさ、猥雑さは薄いですが、まるでエイフェックス・ツインとオウテカとスティーヴ・ライヒがシカゴのゲットーに迷い込んで錯乱したような異様なサウンドは、確かにダンス・ミュージックの画期となりうるはずです。メロディらしいメロディがほとんどなく、ノイジーで複雑怪奇なリズム・アレンジがほとんどすべてという音楽なので、聞く人を選びそうではありますが、MVもヤバいです。

Jlin - Carbon 7(161)
Jlin performs "BuZilla" | Pitchfork Music Festival
ジェイリン、ラムサ、ローレル・ヘイロー……小野島大が選ぶ知られざる洋邦新譜9選の画像2
ラムサ『pessim』

 名古屋を拠点に、C.O.S.A.×KID FRESINO『Somewhere』や、この欄でも紹介したCampanellaの大傑作『PEASTA』など、さまざまなアーティスト/作品へのビート提供やリミックスをおこないながら、プロデューサー/トラックメイカーとして活動するのがラムサ(Ramza)。自主制作でリリースされたファースト・アルバムに続いて初の全国流通となるセカンド・アルバムが『pessim』(AUN Mute/ウルトラ・ヴァイヴ)です。ヒップホップを軸に多様なビートを繊細かつ大胆にコラージュ。硬質なテクスチャーと荒涼としたサウンド、変則的なリズム、ゆらゆらと浮遊するレイヤーが聞く者の五感を拡張するような刺激的で濃密な音空間を作っています。フライング・ロータスやARCA、OPN等が引き合いに出されますが、手を伸ばせば触れられそうな生々しい実在感と、どこか日本的な情念の感じられるあたり、私はDJクラッシュを初めて聴いた時のことを思い出しました。注目の逸材です。ぜひライブを見てみたいですね。

 ラムサの『pessim』をインスピレーションに映像作家TAKCOMが作ったショートフィルム。これもヤバい。

 
ジェイリン、ラムサ、ローレル・ヘイロー……小野島大が選ぶ知られざる洋邦新譜9選の画像3
ローレル・ヘイロー『ダスト(Dust)』

 ポスト・ダブステップ的な鋭角的エレクトロニカと、会田誠『切腹女子高生』をアートワークに使用したことも話題となったファースト・アルバム『クァランティン(Quarantine)』(2012年)が絶賛され注目されたローレル・ヘイローの4年ぶり3作目が『ダスト(Dust)』(Hyperdub/Beat Records)。よりフロア・コンシャスなテクノに大きく接近した前作『チャンス・オブ・レイン(Chance of Rain)』(2013年)、そこからさらに音数を削ぎ落とし、徹底してミニマルでストイックでアブストラクトなエクスペリメンタル・テクノを展開したミニ・アルバム『イン・シチュー(In Situ)』(2015年)を経ての一作ですが、ファースト・アルバム以降封印していたボーカルを大きくフィーチュアしているのが大きな特徴。はっきり言って歌はヘタクソですが、そのぶん声を完全に素材として使い切ることで、きわめてユニークなコラージュ・アート〜インディ・ポップとなっています。そのぶんストイックなテクノ・アルバムとしての明快な魅力は薄れたので賛否両論でしょうが、こっちの方がローレル本来の魅力に近い気も。6月24日発売。

Laurel Halo - Jelly

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