fhánaが“再生の物語”を経て目指す、新たな表現 「色んな並行世界を包み込んでいきたい」

fhánaが“再生”を経て目指す新たな表現

towanaのポリープ手術を経て、fhána再生の歌「Rebuilt world」

ーー先ほど佐藤さんから「引き継ぐのは初めて」という話がありましたが、今回のカップリングの「ケセラセラ 先斗町Ver.」も、まさに二期を担当したからこそできることで。

yuxuki:そうですよね。これは去年からライブでやっているリアレンジ・バージョンを元に作ったものです。

佐藤:ただ、演奏は変わっていて、もっとバンドっぽくなったというか。「ムーンリバー」はyuxukiくんが作曲して、僕がアレンジをしましたけど、この「ケセラセラ 先斗町Ver.」は、僕の作曲でアレンジはyuxukiくんが担当しているんですよ。

ーー聴かせてもらって驚いたのですが、鳴っている音数がすごく少ないですよね。

yuxuki:かなり減らしました(笑)。今回はライブで完全再現できるように「ひとり一楽器」という縛りを設けたんです。だからkevinもグロッケンだけだし、ギターも重ねていないし。

towana:それにコーラスも入っていなくて、歌も一発録りぐらいの感じでした。楽器と「せーの」で録ったのも初めてでしたね。かなりライブ感のあるものになったと思います。

ーー曲の冒頭にオリジナルにもあったピアノの音色が入っていますが、この音に少しノイズが加えられていて、古いラジオから聞こえる音のようになっていたのも面白かったです。

佐藤:そこはまさに、そういう狙いでした(笑)。

yuxuki:「(一期から)続いているよ」ということを表現したかったんですよ。

ーーこの曲に「先斗町Ver.」というタイトルをつけたのはなぜだったんですか? 先斗町(ぽんとちょう)は京都に実在する地名で、『有頂天家族』の中で金曜倶楽部が宴会をやっていたところでもあります。

yuxuki:最初は「アコースティックVer.」と呼んでいたんですけど、「全然アコースティックじゃない」という話になったんですよ(笑)。かといって「スタジオ・ライブVer.」かというと「それも違うな」と。今回はアレンジがお洒落なバーでやってそうな雰囲気なんで、「京都で言うとどこだろう……」と考えて「先斗町Ver.」になりました。演奏はライブのバンドメンバーと同じ、田辺トシノさんと鈴木達也さんです。ギターとベースとドラムでバーン! と録って。歌も一緒に録りました。

kevin: fhánaはこれまで違うアレンジを音源にしたことは一度もなかったんですよね。

towana:だから、デビュー曲の別アレンジが、同じ『有頂天家族』の楽曲に入るのは嬉しかったです。でも、ちょっと混乱もしますね(笑)。ライブではオリジナルのアレンジも、どっちも演奏することがあるので。

ーーしかも、towanaさんは声だけで2曲の違いを表現する必要があったと思います。

towana:そうなんですよ。デビューのときのバージョンも、今回のバージョンも、歌い方はそれぞれ全然違うものにしていて。

yuxuki:今回、すごく楽しそうに歌ってたよね。間奏のところでハミングしていて。

towana:超楽しかった! 間奏に入っているフェイクも、完成版を聴くまで使われているとは知らなくて、楽しくて自然に出たものだったんですよ。

kevin:歌い方が全然違いますよね。当時の声と比べると、今はシングル10枚を通して積み上げてきたものがちゃんとあって、「やっぱり違うなぁ」と。流石towana先生!

yuxuki:(笑)。近頃「ケセラセラ」をライブでやっているときともまた違う表情になっていて、曲によって声の表情を変えているのがすごくいいな、と思いましたね。

towana:成長しました(笑)。

佐藤:付け加えるなら、今回はいい箇所を差し替えて繋げたりせずに、よかったテイクをそのまま全部使っているんですよ。最初、バンドで演奏するガイド用にブースで歌ってもらったら、それがめちゃくちゃ楽しそうでいい感じだったんで、「バンドと一緒に録ろう」と。これはきっと、デビューの頃はできなかったことですよね。

towana:本当にそうだと思います。ライブでバンドと一緒に歌う楽しさを知った今だからこそかもしれないですね。

ーーそしてもうひとつのカップリングは、佐藤さん作曲の「Rebuilt world」。この曲は「再生」がテーマになっていますね。

佐藤:『Looking for the World Atlas Tour 2017』ではこの曲を1曲目に演奏しましたけど、「ムーンリバー」が飄々としたクールな弁天の挫折と再生を歌っているとするならば、この「Rebuilt world」はfhána自体の再生の物語になっているんです。前回のツアーファイナルの前日に、towanaの喉にポリープがあるとはっきり分かって、そこからだましだまし活動を続けて、手術をして。前回の「青空のラプソディ」が回復してから初めての作品になったんですけど、そのときにtowanaの歌がさらにパワーアップしたのを感じたんですよ。それにfhánaの活動自体も、色んな出会いがあって活動してきて、今ちょうど一周回った感じがあって。そのタイミングで『有頂天家族』のタイアップをまたやらせてもらえることになったので、「またここから新しいスタートだ」という気持ちで「再生の曲を作ろう」と思いました。音楽的には、「ムーンリバー」のテクノっぽいサウンドをより展開した曲ですね。

ーー何でも、この曲を作る前に佐藤さんがポーター・ロビンソンとマデオンの「Shelter」のMVを観て刺激を受けたそうですね?

佐藤:サウンド的には「Shelter」のMVを観て盛り上がって、その勢いで作った感じです(笑)。「ムーンリバー」のMVを撮るために京都のホテルで待機しているときに、スマートフォンでyuxukiくんが「これいいんですよ~」とMVを観せてくれて。それで感激して作ったんですけど、「Shelter」とはまた違った趣の作品になりましたね。この曲ではミトさんに、ベースで生の鋭いグルーヴを入れていただいたのも大きかったと思います。とにかく……「やっぱり、いい音楽を聴くのは大事だな」と思いましたね(笑)。

ーーまた、この曲はfhánaの初期の楽曲のひとつ、「kotonoha breakdown」に通じる雰囲気もあるんじゃないかな、と思いました。

佐藤:ああ、作詞を担当してくれている林(英樹)くんも同じことを言っていました。「kotonoha breakdown」は東日本大震災が起きたときの日本の空気感を受けて作った曲で、fhánaの結成にも重要な意味を持っています。あの当時、3月11日に地震が起きて、yuxukiくんが家に帰れないからとウチまで歩いてきて、Skypeで知り合いと会話しながら、不安な夜を過ごして……。そういうものが、fhánaの結成にとって重要なエピソードだったりもするんです。今回、林くんは歌詞を書いているとき、あの震災の頃の雰囲気を思い出したみたいですね。だから、「ムーンリバー」がデビューから一回りだとしたら、「Rebuilt world」はfhánaの結成から一回りになっている曲なのかな、と思います。この4人がたまたま出会って、一緒に音楽をやって、デビューさせていただいて……。それをたくさんの人が聴いてくれる今の状況って、考えてみるとすごく奇跡的な確率で。fhánaはよく「世界線」という言葉を使いますけど、それは色んな可能性の中のひとつ、並行世界という意味で。アニメの主題歌を作るにあたっても、アニメの物語もfhána自身の物語も、色んな並行世界を包み込んでいきたいな、と思っているんですよ。

towana:あと、この曲はレコーディングをしているときも佐藤さんが曲をどうしようか迷っていたみたいで、いつもと違ってディレクションにキレがなくて(笑)。「うーん、ここはこうしてみようか?」「こっちはこうしようか」と悩んでいたので、「佐藤さん、迷ってますよね?」と言ったら「うん、そうだね」という話になって。結局、私が「じゃあこういうのはどうですか?」と自由に歌わせてもらった感じがします。佐藤さんの曲は爽やかな曲調のものが多いですけど、この曲は切ない感じを出そうと思って歌いました。

佐藤:さらに、確かに一度音源が完成してから、僕の中では今回この曲をツアーのリハーサルで初めてバンドで演奏したときに、「ああ、こういう曲だったんだ」と見えた部分がありました。これまでは作曲した時点のイメージに近づくために曲を作っていくのがほとんどでしたけど、ライブで完成形が見えたというのは初めてのことで。

ーーああ、より「バンド」としての体力がついてきているということなのかもしれませんね。

yuxuki:「Rebuilt world」は曲を聴いた瞬間にライブっぽいと思って、それで「1曲目にどうですか?」という話をしたんですよ。曲はシリアスめですけど、イントロに始まり感があって、曲的にもEDMっぽい感じの曲でノリやすい。だから、ライブではPAさんに「もっとベースを上げてくれ」「キックを上げてくれ」「もっと体が動く感じに音を作ってほしい」と話して。

佐藤:そうそう。最初にセットリストを考えていたときは、シリアスな曲なんで、「後半の頭ぐらいにしようかな」と思っていたんですよね。そうしたら、yuxukiくんが「これが1曲目でもいいんじゃないですか?」と言ってくれて。それなら登場SEもこの要素を使って作って、繋げていったら面白いかなと思ったりもしました。

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