11thシングル『ムーンリバー』リリースインタビュー
fhánaが“再生の物語”を経て目指す、新たな表現 「色んな並行世界を包み込んでいきたい」
「お客さんはきっと、アニソンじゃない曲もアニソンも分け隔てることなく聴いていた」
ーー今回の『Looking for the World Atlas Tour 2017』は、みなさんにとってどんなツアーになりましたか?
towana:今回は5カ所回ったので、今まででのツアーで(公演数が)一番多くて、ツアーをやっている感覚がすごくありました。今回はバンドメンバーと作っていくという感覚があったし、「ツアーってこういうものなんだ」と初めて分かったような気がします。
yuxuki:あと、お客さんもfhánaのライブに馴れてきてくれているというか。前はもっとカオスな感じもあったと思うんですけど。
towana:ああ、そうかも。確かに変わったよね。
yuxuki:今は、ちゃんと曲を聴きにきてくれている感覚があるというか。中にはすべての公演に来てくれている人もいて本当に嬉しかったし、Twitterとかを見ていると、どうもお客さん同士の輪も広がってきているみたいなんですよね。
ーー佐藤さんはよくライブで「fhánaの物語は、みんなの物語でもある」と言っていますが、ファンのみなさんの世界線もまた、広がってきているということなのかもしれないですね。
yuxuki:だから、自分たちも「恩返しできたら」と思うんですよ。ライブに来てくれたら僕らも嬉しいし、来てくれたみんなも楽しんでくれる、そういういい関係になってきているんじゃないかなと思っているので。それに、初めてくる人でも、周りのお客さんの空気がいいと楽しみやすいですよね。だから、そうなっていたらいいなと思います。別に予習する必要はないし、セットリストがどうなっているかも、服装をどうしようということも気にしなくていいんで、気軽に遊びに来て楽しんでもらえたら嬉しいな、と思っているので。
佐藤:今までのツアーはアルバムのツアーだったんで、作品を作っている間に考えが深まって、それをライブで表現するという形でしたけど、このツアーは僕たち自身「新たな地図を探す旅」で、ライブを重ねるごとにだんだん理解が深まっていったような感覚でした。最初からお客さんの反応もよくて、いいライブだったとは思うんですけど、「世界地図を探す旅」というテーマ自体を、僕ら自身が掴みきれていないところがあって。もちろん、「前半のツアーはいまいちなので、後半に来た方がいいですよ」という話ではないですよ。要は、リアルタイム性というか、お客さんと一緒に育て行っている感じがして、毎回、そのときその場所だけの空間だったと思います。
ーーそれぞれの会場のお客さんの反応がバンドに影響を与えて、かかわってくれたすべての人々で一緒にひとつのツアーを作っていく感覚があった、と。
佐藤:今までのツアーでは、途中でセットリストを変えたり、演出を変えることはなかったんですよ。でも今回は、お客さんからのフィードバックを受けて「次はこうしよう」と変えていったというか。その最たるものが、福岡公演からはじまったライブ冒頭のkevinくんのソロパートですね。最初に新曲の「Rebuilt world」をやることもあって、お客さんに温まってもらうためにも、福岡からは“スーパーケビンタイム”(ソロパート)から始まる構成にしました。そうしてみると、結果的にすごくいい流れでライブを始められたりして。ツアーを通して色んなことを見つけていくような感覚でした。3rdアルバムに向けて、それがどんなものになるのかを「みんなで一緒に探すツアー」だったんだと思います。始まる前からそう言ってはいましたけど、それが現実になったというか。
kevin:個人的にも、最初はお客さんにどう楽しんでもらおうか迷っていた部分があったんですよ。でも、スーパーケビンタイムをやることによって、向き合い方が分かったというか。福岡公演の直前、5分前ぐらいに、プロデューサーから「これは感謝のツアーだから、6人で演奏する楽しさを最大限に伝えよう」ということを言ってもらって。そこで、自分がどう演奏して、どう観てもらうかがはっきりした感じでした。
ーーそうやってライブが変化しつつあるのは、「青空のラプソディ」でfhánaを新しく知ってくれた人が多かったこととも関係しているんでしょうか?
kevin:確かに、「青空のラプソディ」は新しいお客さんがfhánaのことを知ってくれたタイミングでしたね。それに僕は、「楽しい」と思って帰ってもらうことが一番だと思っているんですよ。これはfhánaを始める前から、個人としてずっと大切にしていることなんです。
ーーここ最近はアニソンへの偏見も、ますますなくなってきているように感じます。また、アーティスト自身も、ロックシーンやクラブシーンを巻き込んで活動する人たちが増えてきていますよね。より開かれた雰囲気になりつつある今のfhánaのモードは、もしかしたらそうした雰囲気ともリンクしているのかもしれませんね。
kevin:そうなってほしいな、というのはつねづね思っていることなので、そうなってきているとしたら、それはすごく嬉しいことです。
yuxuki:「ボーダレスな存在になりたい」というのは僕らもずっと言ってきたことなので。
佐藤:まぁ、お客さんはきっと、アニソンじゃない曲もアニソンも分け隔てることなく聴いていたと思うんですよ。アニソンもアニソンじゃないものも、結局は同じ音楽ですし、fhánaというバンドも、ずっと音楽そのものと物語との親和性を大切にしてきました。だから、どちらかというと、業界の方が分かれているのかもしれないですね。それに「普通のJ-POP」と「アニソン」という“違い”を敢えて作ったほうが分かりやすかったり、売りやすいという面もあると思うので難しいところです。けれどもメディアや音楽業界の人たちがフラットにピックアップしてくれる状況が生まれたら、それはすごく嬉しいことですね。ここ最近は、クラスタを超えるというよりも、細分化されたジャンルの間にある滲みのような部分にさらに別の名前を付けていくことが続いていて、それはそれで楽しかったりはしますげど……、もはやそういうことではなくて大きな存在になっていけたら嬉しいですよね。
ーー今回のツアーでの経験を経て、3rdアルバム『World Atlas』は、どんな作品になりそうですか?
yuxuki:「青空のラプソディ」はみんなにすごく聴いてもらった曲だったので、今回はそれが重要になるアルバムだと思っているんですよ。だから、ツアーでの経験を全部詰め込んだ、楽しい作品にしたいと思っていて。今回は自分たちがいるところから一歩踏み出すような作品になったらいいな、と。聴く人はアニソンだからみたいなボーダーはあまりないとしても、届く層はまだまだ限られている部分があると思うので、アニメを観ていない人には届かない、ということではなくて、そこからより一歩踏み出せたらいいなというか。
佐藤: fhánaの音楽は、どんなクラスタも関係なく、みんなに聴いてほしいので。さっき、「Rebuilt world」のレコーディングのときに「正解が分かっていなかった」という話がありましたけど、結局、『Looking for the World Atlas Tour 2017』は、今のfhánaそのものだと思うんですね。というのも、結成して、デビューしたときに、少なくとも僕の中にはあった青写真に、2ndアルバムをリリースした頃に現実が追いついた感覚があって。今はそこから、「地図のない旅」「次の新しい地図を探す旅」に出ている感覚なんです。その集大成が、3rdアルバムになるんだと思います。だから、ツアーの経験も詰め込んだ、すごく開かれたものにしたい。「開かれたものにしたい」というのは、いつも言っていることですけどね(笑)。
ーーそれでも、今のfhánaがこれまでで一番開かれた場所に立っているのは間違いなさそうです。
yuxuki:そうですね。だから、このタイミングでできる一番開かれたものを作ってみたい。
佐藤:今回のツアーや「青空のラプソディ」をリリースした中で思ったのは、誤解を恐れずに言うと、「サービス精神」のようなものだったんです。今までは自分たちがいいと思うものを作って「これいいですよね?」と分かってくれる人を探す感覚でしたけど、別に媚びるわけではなく、今は「みんなのために作品を作りたい」という気持ちが強くなってきていて。それこそ、『Looking for the World Atlas Tour 2017』も、会場のみんなの反応で、変化していったわけですから。次のアルバムでは今のfhánaを詰め込んで、開かれた作品を作れたらいいな、と思っているところですね。
(取材・文=杉山仁)
■リリース情報
『ムーンリバー』
発売中
アーティスト盤
価格:¥1,200(税抜)
<収録曲>
1.ムーンリバー
2.Rebuilt world
3.ムーンリバー -Instrumental-
4.Rebuilt world -Instrumental-
アニメ盤(描き下ろしアニメイラストジャケット仕様)
価格:¥1,200(税抜)
<収録曲>
1.ムーンリバー
2.ケセラセラ ~先斗町Ver.~
3.ムーンリバー -Instrumental-
4.ケセラセラ ~先斗町Ver.~ -Instrumental-