角松敏生、キャリアにおける重要作をリメイク 『SEA IS A LADY 2017』の仕掛けを読む

 とはいえ、本作はたんなる焼き直しの作品ではない。ところどころにオリジナルとは違う仕掛けがあるのが面白い。例えば、「Ryoko!!」は『SEA IS A LADY』ではなく、1983年のアルバム『ON THE CITY SHORE』に収められていたインストのリメイク。また、いきなり現れるボーカル・ナンバーの「Summer Babe」は、1981年のデビューアルバム『SEA BREEZE』収録曲だが、レコーディングされる前のオリジナルアレンジをもとにしたもの。もともとインスト部分が重要な楽曲だったこともあっての選曲だそうだ。そして、新曲「Evening Skyline」も書き下ろされているが、こちらは80年代に一世を風靡したUKのフュージョングループ、Shakatakへのオマージュとなっている。一大セッションへと展開していく「OSHI-TAO-SHITAI」がラストを飾るなど曲順も少し変えたことで、オリジナルを聴き込んだファンにも新鮮に聞こえる作りは、まさに2017年バージョンなのだ。

 リメイクというのは、ある種の自己満足だろうし、実際に角松本人も拙かった過去の自分への落とし前だと語っている。しかし、それ以上にこの『SEA IS A LADY 2017』は、80年代当時の彼が規格外のスケールを持ったアーティストであったことを再提示するアイテムにもなるし、さらにいえば、今のシティ・ポップ・ブームで注目されているアーティストが今後どう進むべきかのひとつのヒントにもなるはずだ。そういう意味でも、今聴くべき非常に重要なアルバムだといえるだろう。

■栗本 斉
旅&音楽ライターとして活躍するかたわら、選曲家やDJ、ビルボードライブのブッキング・プランナーとしても活躍。著書に『アルゼンチン音楽手帖』(DU BOOKS)、共著に『Light Mellow 和モノ Special -more 160 item-』(ラトルズ)がある。

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