松村早希子の「美女を浴びたい」
「MV女優」の時代が来た? 9mm、polly、大森靖子らの作品に登場する美女たち
MV女優(byアリスムカイデ)。インターネットの動画で、テレビCMで、街角の大画面で、ただ一瞬目にしただけでも、心に引っかかり忘れられなくなってしまう存在。音楽そのものを主役とするミュージックビデオの中で、演奏者でも作曲者でもなく、言葉を語らず、表情と佇まいだけで楽曲のイメージをより強くする。身体ひとつが剥き出しになったMVの中の彼女たちを見つめていると、台詞のあるドラマや映画よりも、身体性が直接ぶつかってくることに気づきます。
アリスムカイデ
出演:9mm Parabellum Bullet「眠り姫」/フレデリック「オドループ」など多数
「MV女優」という肩書きを自称し、多くのMVに引っ張りだこです。本人曰く「長すぎる」手足、この世のものとは思えない小さな顔、けれども普通のモデルよりも首や肩にしっかりと筋肉の付いた、マーベルコミックのようなその肢体が画面に現れると、緊張感が走ります。可愛らしいベビーフェイスなのに佇まいはクールなファッションモデルのオーラを纏うアンバランスさと、振付けなのか即興なのか判別しかねる誰にも真似できない謎の動きに、どうしようもなく惹きつけられます。髪型のせいもあってか幽霊などこの世ならざる存在を演じることも多いですが、本人もその役割を楽しみ、髪を振り乱して生き生きと没入して、有無を言わさずどんなものでもオシャレにしてしまうパワーに満ちています。
ハラサオリ
出演:polly「狂おしい」/大橋トリオ「 The Day Will Come Again」など
「人間の体ってこんな形状になるんだ…!」と衝撃を受けた、関節の概念を捨て去るような動きが、映像に黄泉の世界の空気をもたらします。コンテンポラリーダンスの世界に留まらず、ベルリンと東京を行き来し、様々な場所で活躍する彼女。麻布の「新世界」で初めて目にした時、天上人のような美女が目の前で踊っている、目の前でお酒を飲んでいる、目の前で談笑されていることにありがたみを感じ、心から感謝しました。彼女が踊ることによってその場所の構造や空気の流れを初めて知ることができるような、空間をデザインする動き。美術大学デザイン科出身、ダンスはほぼ独学という、異色の経歴もまた彼女の存在から溢れ出す魅力です。