2017年、中田ヤスタカは変わろうとしているーーきゃりー、Perfume、三戸なつめ新曲から考察
強い作家性を持ちながらも常に大衆を魅了してきたプロデューサーのひとり、中田ヤスタカ。彼の音楽性を語るときによく引き合いに出されるのが、印象に残る“短い反復”を多用するメロディであったり、造語を用いた“キャッチーな歌詞”であったり、日本人に馴染みのある“ヨナ抜き音階”であったり、踊りやすい“四つ打ち”のリズムだったりする。しかし今現在、彼自身が曲作りに重きを置いている点は若干だが変化しつつあるように感じる。2017年に発表された彼の主な作品を聴き、今現在の彼のモードを読み取ろう。
昨年、デビュー5周年でベストアルバムを発売し、ひと区切りが付いて以来のリリースとなる今作。<あの交差点から始まった>という印象的なフレーズは、彼女が最初に中田ヤスタカとタッグを組んだ「PONPONPON」の歌い出し、<あの交差点で みんながもしスキップをして>と対になっている。きゃりーのシングル曲としては実質的に初となるサビに明確な歌詞の無いドロップを用いたEDM路線であり、彼女の“新しい一歩”が詞にも音にも表れている楽曲だ。ドロップ直前の<いやほい>のレコーディングに何時間も費やしたそうだが(ヤスタカがめちゃくちゃこだわったらしい)、この投げやり感はとてもよい煽りになっている。もはや「サビで何をどう歌うか」ばかりが注目されてしまう彼女に付き纏う呪縛を、ひと言で解き放つパワーがこの<いやほい>に感じとれる。
2014年の「Cling Cling」以降のシングル曲では、サビ始まりではなく、イントロ→Aメロと展開していたPerfume。いきなりサビから始まることでインパクトを残すスタイルではなく、別の方法でリスナーを引き込むスタイルを模索しているようだ。イントロは非常に印象的である。他の音を削いでリズムのみで、しかも四つ打ちではなく2ステップ系の“特徴的なリズムパターン”である。このようなドラム使いはそもそも中田ヤスタカ自体に珍しいことである。壮大なストーリーを予感させる長編映画のプロローグのようなこの幕開けからは、製作陣のただならぬ意気込みを感じる。
Aメロではほぼ歌とキーボードのみという思い切った決断をしている。余程、歌声や音色に自信がないとできないことだ。付属DVDでのPerfume本人たちのコメントによれば、「レコーディング時にはAメロはもっと音が多かったが、出来上がったものを聴いてみたらかなりの要素が削がれていた」という。つまりAメロのこの“余白”の多さは、サビを盛り上げるためにあとから意識的に引き算され強調されたものだということだ。テンポがそれほど速くないので間延びしてしまいそうだが、前半<太陽が~熱帯魚>では生のピアノに限りなく近い音、リズムが合流する後半<平凡を~泳げたら>では柔らかい電子音に変化させることで、それを防いでいる。こうして強調された緩急により、サビは”TOKYO”をタイトルに冠すのに申し分のない広がりを得ている。
“特徴的なリズムパターン”と“余白”。この2つがこの曲のポイントであり今までのPerfumeに無かった新しい要素だ。