2017年、中田ヤスタカは変わろうとしているーーきゃりー、Perfume、三戸なつめ新曲から考察
イントロは非常に“ヤスタカ的”なノリのよいビートだが、Aメロに入り<冒険すればきっと>と歌われると、逆に“非ヤスタカ的”な音へガラッと変化する。生のギターとピアノが主役となるアコースティックなサウンドだ。三戸なつめの楽曲の特徴のひとつとして挙げられるのがこの“生のピアノ”の音である。2ndシングル曲「8ビットボーイ」のイントロでは小刻みなピアノの打鍵音が、3rdシングル曲「I’ll do my best」ではピアノの打鍵後の豊かな響きが、そしてこの「パズル」でもピアノが使われているが、比較的低い音の鍵盤による深く延びのある共鳴音が曲の多くを占めている。これにより、骨格としての曲の形はダンス・ミュージックなのだが、実際は非常にオーガニックで温かみのある歌モノのポップスの要素で充満している。音の響きを楽しむ曲なのだ。キャッチーであることが是とする今のJ-POP--それはまさしく中田ヤスタカ自身が作りあげた状況である--を考えるならば、この曲は少々物足りなく感じるかもしれない。しかし、そういう現状を打破する駒の一つとしてこの曲は聴かれるべきだ。サビの最後の詞にはこうある。<次へと進みたいでしょ>。
「ハナビラ」と聞いてまず思い浮かべるのは、「さくら」や「東京喫茶」といった純日本的な言葉をタイトルに取り入れていた初期のcapsule、とくに2ndシングル『花火』あたりにこの曲の醸しだすイメージは似ている。非常に“情景”を喚起させるタイプの楽曲だ。サビの細切れのメロディーからは舞い散る桜の花びらを、淡々と進むアコギの2コードのバッキングからは時の流れを、傍で微かに鳴っているストリングスからは切なさを感じる。全体的にピアノもアコギも裏打ちで弾かれているため、その分キックが目立つ。これにより、少し散り始めた春の桜並木をゆっくりと歩いているような感覚に浸れるのだ。我々が思う典型的「ヤスタカ像」を払拭してくれる曲作りを、三戸なつめの楽曲には感じとれる。4月26日発売のファーストアルバム『なつめろ』に期待できるのは、こうした「情景」や「季節感」を感じ取ることができるアプローチだ。
短期間でヒット曲を量産してきた分、既存のイメージに囚われがちな彼だが、きゃりーの“サビに歌詞のない”EDM路線、Perfumeが取り入れた“特徴的なリズムパターン”と“余白”、三戸なつめに感じる“ピアノの響き”や“季節感”。これらはどれも“脱ヤスタカ”サウンドである。2017年、中田ヤスタカは変わろうとしている。
■荻原 梓
88年生まれ。都内でCDを売りながら『クイック・ジャパン』などに記事を寄稿。
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