4thアルバム『Awesome City Tracks 4』インタビュー
Awesome City Clubが見つけた明確な方向性「『逃げ恥』や『君の名は。』と同じ空気を作れたら」
「コンセプトにしがみつかなくてもいいんじゃないか」(マツザカ)
――音色については、続いての「Cold & Dry」も負けず劣らずだと思います。<Tokyo Recordings>のYaffleさんとOBKRさんがプロデュースに関わったものですが、音一つひとつの選択が絶妙だなと。先ほどマツザカさんからは「インディーR&B」というワードが出ましたが、ゴスペル風のハーモナイズを機械的に施していたり、ボーカルエフェクトがPrizmizer風というか、Bon IverやFrancis and the Lightsに近しいものを感じました。
atagi:もともとはさらに音数が少なくて、淡々としたギターフレーズが続く感じだったんです。メンバー同士ではその状態でも「景色が見える」と話しつつ、「自分たちで作りこむ前に<Tokyo Recordings>にお願いしてみよう」ということになり、結果的にこんな好き放題やってもらって、すごく良くなりました。OBKRくんとは「フランク・オーシャンみたいな曲にしたいね」とも話していたんです。
――この曲を聴いてあらためて思ったんですが、atagiさんの声質はインディーR&B風のシリアスな楽曲と相性がものすごく良いですね。
マツザカ:ファルセットはatagiの大きな武器で、それを活かせる部分も大きいのかもしれません。楽曲自体もカオティックな部分を足してくれていて、ただ切ないだけの曲じゃなくなっているからこそ、より歌が届くし感情が揺さぶられるんだと思います。もともとこの曲はatagiが「1stアルバムの『Lesson』みたいな曲を作りたい」という風に持ってきたもので。「Lesson」は男性が別れた女性について歌っているのですが、今回は別れた側の女性のことを書いてみようと、聴いた瞬間に思いついたんです。
――アンサーソング的な位置付けですね。同じボーカルエフェクトでも「Movin’ on」はまた少し違っていて。個人的には歌詞にない<to the right to do left>という呪術的なエフェクトを掛けたコーラス部分に惹かれました。
atagi:コーラスとして使っていたものをエディットして、それ自体をトラックっぽく聴かせている部分ですね。それは浦本さんの手腕によるところです。僕自身、こういう構成は書いたことがないんですよ。いわゆるハウスやテクノのように、淡々と同じリズムで進行していって、「ここだよ」というポイントでドカンと放出するという。浦本さん自身がかなりダンスミュージックに精通している人なので、そのあたりは色々と頼りにさせていただきました。歌詞については、「曲が書けない期間に246号線を散歩する」という恒例行事をしている中で生まれた言葉なんです。
――書けないことを書いたわけですね。曲と歌詞が循環しているのもまた、良い違和感が残るポイントなのかもしれません。
atagi:生きていたら、能動的に何かやりたいということ以外に「逃げたいけどやらなきゃ仕方ない」という状況によく遭遇するじゃないですか。でも、そこから生まれるものは確実にあるし、価値ある時間だなと思った気持ちを込めました。
マツザカ:atagiの曲って、冷たいのか温かいのかわからない温度感のものが多いんですよね。その要素が僕たちを「アーバンっぽい」と印象付けしていると思っていて。あと、トレンディな歌詞を書くことが多いatagiが、数え歌っぽいワードを使ったりと、そうじゃない一面を見せてくれていたり、大好物のカッティングが入っていたりと、まさにatagiって感じの曲ですよ。
atagi:この曲のカッティングは浦本さんに「ずっと聴いてられるわー」と褒められたので、そういう部分も聴いてもらえたらすごく嬉しいです(笑)。
――「青春の胸騒ぎ」は、Curly GiraffeさんによるAOR的なプロデュースも印象的ですし、この曲だけはっきりと東京という景色を描いているPORINさんの歌詞も含めて、ずっと「東京のうた」として歌い続けられそうな楽曲だなと感じました。イントロのシンセサイザーによるサイン波の使い方もまさに「1990年代」という。
マツザカ:ひと昔前の携帯会社のCMで使われてそうな感じですよね。デモ段階ではもう少しいなたい曲で、もっと現代的にしようかと思ったんですけど、高桑(圭・Curly Giraffe)さんと話して、他のアルバム曲を聴いてもらったら「逆にもっとAORっぽくしよう」と舵を切ってもらえて、ドンピシャでした。
PORIN:この曲は3rdアルバム制作時から原型があって、すんなり心に沁みるいい曲だなと思っていて。私がどうしても今回入れたいと思って、再構築する際に歌詞を書きたいと立候補したんです。
マツザカ:2ndの「僕らはここでお別れさ」、3rdの「Around The World」みたいな、しんみりとする系統の曲で、Awesome City Clubの得意分野という感じですね。これまでの曲と違うのは、歌詞がしっかりハマっているところだと思うんです。個人的にはPORINがこういう歌詞を書けることにビックリしたし、強いフレーズをつけがちな曲なのに、そういうところじゃない部分で勝負できているんだなと感じました。
――ここでアルバムが終わっても良いような展開ですが、最後に前向きな曲を置くというのはここ数作の定番ですよね。「Action!」もその系譜で、ユキエさんのカウントから始まるエネルギー溢れる楽曲でした。
マツザカ:ベタにいくなら「青春の胸騒ぎ」で終わっても良かったけど、「Action!」が“Awesome Revolution“を一番体現している曲だと思ったんです。『Awesome City Tracks』が終わって、次のシリーズへ向かう布石になれば良いかなと。この曲が次のステップにも繋がるし、1stアルバムの1曲目にも戻れる曲という風に味わってもらいたいです。
atagi:歌詞も一番直接的で『Awesome City Tracks4』で言いたかったことを答え合わせする一曲になっていると思います。<リアクションじゃなくてメイクアクション>という言葉がまさにそうで。自分の小さかった頃に向かって語りかける内省的な歌詞だけど、人生の普遍的なテーマでもあるんですよ。
――この作品をもって『Awesome City Tracks』シリーズは終了ということですが、なぜこのタイミングで次へと向かう決断をしたのでしょう?
マツザカ:シリーズのテーマであった「架空の街“Awesome City”で流れるサウンドトラック」というコンセプトをもはや必要としない段階になったかなと。今まではそういう括りのなかでやることでアイデンティティを保ってきた部分もあるんですけど、もっともっと自発的に「こういうことが言いたい」「こういう景色をみんなと見たい」というビジョンがはっきりしてきたから、そこにしがみ付かなくてもいいんじゃないかと思ったんです。
atagi:ここまでくると、Awesome City Clubの作る曲が全て「Awesome City Tracks」であるように感じてもらえる段階に来たような気がするんですよね。『Awesome City Tracks4』は今までより濃いものができたと思えるし、もっとリアルな、要するにほかのアーティストがやっているような土壌に出て行って、真っ向勝負でやってもいいかなと。これまでの4枚で培ってきた部分を活かして研ぎ澄ませて行けば、きっと勝っていけるはずなんです。
――チャレンジングな姿勢が音源やライブ、行動に見えるのが今のACCの面白い部分だと思います。今回はワンマンツアーのほかにアコースティックライブも行なうようですね。
マツザカ:この形態がすごく広がりを見せれるようなものになるとしたら、自分たちにとっても引き出しがまた一つ増えることになるので、期待していてください。バンドとしても面白い音楽を届けるために、バリエーションを増やしていければと思いますし。
――PORINさんはこれまで修行として、ソロや他アーティストのゲストでライブに出演もしていましたが、その成果を存分に発揮できる場になりそうですか?
PORIN:アコースティックになると、やっぱり歌の力とか説得力は必須になるし。そこと向き合えるいい機会なので、すごく大事な場になると思います。これまでもアコースティックセットの評判は良かったので、ライブを通してできるのが純粋に嬉しいですね。
――ライブの形態も様々なものに挑戦するようになってきましたが、今後はさらにバリエーションを増やしていく予定ですか?
atagi:2017年は今までやってきたことで「ACCらしくて素敵じゃん」と思ってもらえるようなことをもう一回集めて、いろんな形で研ぎ澄ましていきたいですね。
(取材=中村拓海/写真=下屋敷和文)
■リリース情報
4th ALBUM 『Awesome City Tracks 4』
発売:1月25日(水)
iTunes Storeほか主要配信ストア、定額制聴き放題サービスでも同日配信開始予定
価格:¥2,000+税
<収録曲>
1.今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる
作詞 : atagi, マツザカタクミ, いしわたり淳治
作曲 : atagi, モリシー
Sound & Words Produced by いしわたり淳治
2.Girls Don’t Cry
作詞 : PORIN, マツザカタクミ
作曲 : atagi, モリシー
Sound Produced by Awesome City Club, 浦本雅史
3.Sunriseまで
作詞 : ユキエ
作曲 : atagi
Sound Produced by Awesome City Club, 浦本雅史
4.Cold & Dry
作詞 : マツザカタクミ
作曲 : atagi
Sound Produced by Yaffle(Tokyo Recordings)
Vocal Direction by OBKR(Tokyo Recordings)
5.Movin' on
作詞 : atagi
作曲 : atagi
Sound Produced by Awesome City Club, 浦本雅史
6.青春の胸騒ぎ
作詞 : PORIN, マツザカタクミ
作曲 : atagi
Sound Produced by Curly Giraffe
7.Action!
作詞 : マツザカタクミ
作曲 : atagi
Sound Produced by Awesome City Club, 浦本雅史
Mastered by Joe LaPorta at Sterling Sound, NYC
■ライブ情報
『Awesome Talks -One Man Show 2017-』
4月14日(金) 広島・SECOND CLUTCH
OEPN 18:30 / START 19:00
4月15日(土) 福岡・BEAT STATION
OPEN 17:30 / START 18:00
4月21日(金) 宮城・enn 2nd
OEPN 18:30 / START 19:00
4月23日(日) 北海道・札幌BESSIE HALL
OEPN 16:30 / START 17:00
5月11日(木) 大阪・梅田CLUB QUATTRO
OEPN 18:00 / START 19:00
5月14日(日) 愛知・名古屋CLUB QUATTRO
OEPN 17:00 / START 18:00
5月19日(金) 東京・赤坂BLITZ
OEPN 18:00 / START 19:00