『ヒップホップ・ジェネレーション[新装版]』インタビュー
宇多丸が語る、名著『ヒップホップ・ジェネレーション』をいまこそ読むべき理由(後編)
宇多丸「ヒップホップは掘り下げるほど面白い」
磯部:本書を始め、ヒップホップのムーブメントは、掘れば掘るほど色々なエピソードが出てくるし、それらが複雑に絡んでいるところが面白いですよね。
宇多丸:ほんの40年前に起こったことだからこそ、すごくロマンを感じる。ここまで克明に記録されていて、何なら映像も残っているって、他の文化ではありえないこと。新たな文化がどのように生まれたのか、その黎明期がリアルに想像できるところは、ヒップホップの大きな魅力のひとつでしょう。
磯部:現在の日本のラップ・ブームも、本書が書いているような“ヒップホップ・ジェネレーション”の一部だと言えるのでしょうか?
宇多丸:間違いなくそうだと思う。実際に今、ラップをしている子達の活動スタンスを見ていると、うまくいっているかどうかは別として、ネットを活用して自分たちで宣伝したりしていて、すごく自然と“ヒップホップ・ジェネレーション”になっている。自分たちで金を回してちゃんと生きていこうって精神は、ロックの子達とはまた違うじゃない。その原動力が世界中に広まっている今の状況に、オレは感動しちゃうね。
磯部:それにしても、ヒップホップは歴史にこだわりますよね。ロックだって、ロックンロールの誕生から40年経った90年代にはすっかり大文字の歴史なんてなくなっていたように思いますが。最近、19歳のラッパー、リル・ヨッティの「オレがリリカルじゃないからって嫌いにならないでくれよ。そういうコメントをしている人たちのプロフィールをクリックすると、大抵はめちゃくちゃ年寄りだと思うけどね」や、「2パックやノトーリアス・B.I.G.の曲名なんて5曲も知らない」といった発言が炎上しましたけど、それが話題になるぐらいには、共通の価値観や歴史観が存在するってことですから。
宇多丸:ヒップホップにはやっぱり、常に過去を参照する感覚があるんだと思う。親のレコードをサンプリングするのもそうだし、ラップにしても「こいつがこう言ったから、オレはこう言う」っていうふうに、そもそもがネットワーク・カルチャーなんだよね。その文脈の積み重ねが面白いのだから、当然ながら掘り下げるほどに面白くなるし、美学も磨かれていく。単純に新しい方が偉い、という価値観ではない。DJがレコードを巻き戻すのも、過去へのタイムスリップと言えるし、それこそ『ゲットダウン』では、グランドマスター・フラッシュが「こっちのレコードが過去で、こっちのレコードが未来。DJは時間を操る」なんて言っている。だからこそ『ヒップホップ・ジェネレーション』で過去を知れば、さらにヒップホップを楽しめるのは間違いないはずです。
(取材=磯部涼/構成=編集部)
■書籍情報
『ヒップホップ・ジェネレーション[新装版]』
発売中
著者:ジェフ・チャン
序文:DJクール・ハーク
翻訳:押野素子
定価:本体2,200円+税
仕様:四六判/808ページ
発売:リットーミュージック
<本書の主な登場人物>
DJクール・ハーク、アフリカ・バンバータ、グランドマスター・フラッシュ、ロック・ステディ・クルー、FAB 5 FREDDY、DONDI、リー・キニョネスほか、著名グラフィティ・ライター、ジャン・ミッシェル・バスキア、チャーリー・エーハーン(『WILD STYLE』監督)、ランDMC、アイス・T、パブリック・エナミー、スパイク・リー、N.W.A、ロドニー・キング、ルイス・ファラカーン(ネーション・オブ・イスラム)、ボブ・マーリー、リー“スクラッチ”ペリー、マルコム・マクラーレン、ザ・クラッシュ、70年代ブロンクスのギャングと80~90年代ロサンゼルスのギャングたち
<CONTENTS>
LOOP 1 バビロンは燃えている 1968-1977
LOOP 2 プラネット・ロック 1975-1986
LOOP 3 ザ・メッセージ 1984-1992
LOOP 4 ステイクス・イズ・ハイ 1992-2001
解説:高橋芳朗