日本の歌謡曲は“不倫”をどう描いてきた? コンピ『禁じられた愛の唄』収録曲を読み解く

 不倫ソングの多くは1970年代から1980年半ばに生まれており、年代順に聞くと、女性のキャバレー勤務から、徐々にOLとして社会に進出していく様子も感じ取れる。1987年以降、不倫をテーマとした歌謡曲・演歌が急減しているが、これはJ-POPの台頭と共に、1986年の男女雇用機会均等法の施行により“日陰の女”“待つ身の女”といった描写が前時代的になったことも影響していそうだ。

 また、90年代以降の不倫ソングは、直接婚姻関係を出さずに、“出会いが遅かった”、“逢いたいのに逢えない”といった描写が多くなっている。これは、男女共に晩婚・非婚が多くなっているので、結婚に限定しない“叶わぬ恋”の方が、より現実的ということか。あるいは、ひょっとして昨今年々厳しくなっている企業コンプライアンスが関連しているのかもしれない。

 そういう意味では、禁断ゆえに生じる切なさややるせなさ、燃えたぎる情熱、そして三角関係によって生じる狂おしさや嫉妬などが、よりドロドロに描かれている昭和の歌謡曲や演歌は、よりリアルな内容を持っているといえそうだ。

 まずは、唄の世界だけで本作を堪能してみると意外な発見があることだろう。よりドラマティックな人生を望む人もいるかもしれないし、人によっては陰で悩む人々の気持ちが理解できて、意外と浮気防止(?)に繋がるのかもしれない。

(文=臼井 孝(T2U音楽研究所))

■リリース情報
『禁じられた愛の唄』
発売:2016年9月28日
価格:¥1,800(税抜)
〈収録曲〉
1.年上の女(ひと) / 森 進一
2.他人の関係 / 金井克子
3.シンデレラ・ハネムーン / 岩崎宏美
4.ブルースカイ ブルー / 西城秀樹
5.お嫁にゆけないわたし / 三浦弘とハニーシックス
6.左手で愛して / 畑中葉子
7.ガラスの花 / 高田みづえ
8.さざんかの宿 / 大川栄策
9.越冬つばめ / 森 昌子
10.ホテル / 立花淳一
11.愛人 / テレサ・テン
12.し・の・び・愛 / 柏原芳恵
13.あゝ無情 / アン・ルイス
14.天城越え / 石川さゆり
15.なめとんか / やしきたかじん
16.悦楽の園 / 長山洋子
17.海雪 / ジェロ
18.Ti Amo / 湖月わたる(カバー)

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