森朋之の「本日、フラゲ日!」vol.16
KinKi Kidsの新作『N album』に瑞々しい風が吹いた理由ーー9月21日発売の注目新譜5選
寺嶋由芙『わたしになる』(AL)
ソロアイドルとして再スタートしてから約3年を経て完成した1stフルアルバムは『わたしになる』というタイトルが示唆するように、彼女のキャラクター、嗜好性、これからのビジョンがポップに描かれた作品に仕上がった。アルバムの軸になっているのは、早稲田大学で日本文学を学んだ寺嶋が敬愛する歌人・作家の加藤千恵が作詞した表題曲「わたしになる」。“まだまだ未熟かもしれないけど、このまま進んでいく”という意志を表現したこの曲は、グループアイドル全盛の時代にソロアイドルとして活動している彼女自身の意志に直結している。さらに“ゆるキャラ好き”を前面に押し出した「ゆるキャラ舞踏会」(作詞は“ゆるキャラ”命名者のみうらじゅん)、夢眠ねむが歌詞を担当し、寺嶋のプライベートな感情を浮き彫りにした「オブラート・オブ・ラブ」、真部脩一(Vampillia)がプロデュースを手掛けた抒情的なラブソング「101回目のファーストキス」も。ノスタルジックな正統派アイドルポップスと寺嶋の個性がバランスよく共存した充実作だと思う。
Rei『ORB』(ミニAL)
戦前のブルース、1950年代〜1970年代あたりのロックンロールから最新のエレクトロまでを吸収し、ルーツミュージックの力強さと現代的なポップネスを融合させた楽曲へと結びつけるReiの3rdミニアルバム。長岡亮介(ペトロールズ)のプロデュースによりReiの基本的なスタイルが提示された1stミニアルバム『BLU』、ほとんどの楽器を自ら演奏することで独自のグルーヴを追求した『UNO』に続く本作『ORB』には、彼女のソングライターとしての資質がもっとも強く表れている。“あなたには本当に夢中になれるものがある?”と問いかけるようなリリックが印象的なポップチューン「Pay Day」、東京という街に対する憧れと“この場所で自分の夢を掴みたい”という思いがひとつになったロックンロールナンバー「Route246」など、彼女自身の感情が色濃く反映されている楽曲が軸になっているのだ。爽やかさ、凛とした鋭さ、女の子らしい可愛らしさなど、楽曲によって表情を変えるボーカルも魅力的。
■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。