椎名林檎、“2020年”に向け始まった新たな物語ーー新曲2曲に隠されたメッセージを考察

 先日8月22日、椎名林檎が“クリエーティブスーパーバイザー/音楽監督”としてプロデュースを手がけたリオオリンピック閉会式の『トーキョーショー』の模様が放送された。ショーには、中田ヤスタカや、Perfume、BABYMETALを担当する演出振付家MIKIKOといった日本のポップカルチャーを代表するクリエイターも参加。50人のダンサーとAR(拡張現実)を演出に取り入れ、先鋭的でありながら日本の文化や風土に根ざしたパフォーマンスは、大きな話題を呼んだ。そして同日、椎名林檎の新曲「13 jours au Japon ~2O2O日本の夏~」と「ジユーダム」の配信がスタートした。

 2016年に入ってからの椎名は、“作詞家・作曲家”あるいは“プロデューサー”としての動きが中心となっていた。高畑充希が出演する『かんぽ生命』や資生堂『マシェリ』のCMに楽曲を提供し、声優・林原めぐみ「薄ら氷心中」のプロデュース、そして今回の『トーキョーショー』。かねてから、自作の制作に劣らない熱心さ・真摯さで楽曲提供を行い、“裏方”としても優れたポップミュージックを生み出してきた椎名だが、ここ数年はその動きが加速している印象があった。そんな中で発表されたこの2曲、椎名林檎として新曲をリリースするのは、昨年夏の『長く短い祭/神様、仏様』以来およそ1年ぶりとなる。

 「13 jours au Japon ~2O2O日本の夏~」は、フランシス・レイ作曲の「白い恋人たち(13 jours en France)」が原曲となっており、椎名はオマージュを込め、新たな日本語詞を書き上げてリメイクした。9月28日に日本で先行リリースするフランスの老舗インディーズレーベル<サラヴァ>の発足50周年を記念したコンピレーションアルバムにも収録される。

 「白い恋人たち」は、1968年フランス・グルノーブル冬季五輪の記録映画のテーマとして書き下ろされた楽曲。椎名は「~2O2O日本の夏~」という副題をつけ、歌詞も東京オリンピックに馳せる思いを綴ったものになっている。

 メランコリックな旋律と椎名の儚げな歌唱は、原曲のフレンチ・ポップスのテイストを残しているが、アレンジに鍵盤やトローンボーンも加わることで、その和音の響きが楽曲全体に豊潤な広がりをもたらしている。また、歌詞のモチーフとして、日本の夏を象徴する<枝垂れ柳><菖蒲><菊>といった言葉も使われている。オリンピックという舞台の華やかさと賑やかさ、パフォーマンスに身を呈するアスリートとそれに熱狂する人々、そして、そんな13日間が終わったあとに訪れる、祭りのあとの静けさーーそういった諸行無常の世を見つめ、そこに生命の輝きを見出す視点が、花が咲き枯れるまでの刹那性と重なり、より一層美しさと侘しさを駆り立てる。

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