→Pia-no-jaC←、映画音楽を通じて発見した新機軸 最新カバー作の“オリジナル性”に迫る

→Pia-no-jaC←、映画音楽から発見した新機軸

 →Pia-no-jaC←が最新カバーアルバム『Cinema Popcorn』を8月3日にリリースする。これまでも『EAT A CLASSIC』シリーズでクラシックの名曲群を大胆にアレンジし続けたり、ディズニー公式カバーアルバムでディズニーの人気楽曲を独自の解釈でカバーしたりと、ピアノとカホンというアコースティック楽器の最小編成で、作品ごとに奇想天外なアレンジでリスナーを驚かせてきた彼ら。今回は文字通り、映画音楽や映画主題歌をオリジナリティ溢れるカバーで聴かせてくれる。

 そのカバー曲のセレクトも『ハリー・ポッター』シリーズ(M-1)、『戦場にかける橋』(M-2)、『ゴーストバスターズ』(M-3)、『プリティ・ウーマン』(M-4)、『ミッション:インポッシブル』(M-5)、『アルマゲドン』(M-6)と、その大半が80年代〜2000年代の大ヒット映画からで、メンバーと同世代のリスナーなら思わず膝を叩いてしまうような名曲ばかり。オーケストラで鳴らされるインストゥルメンタル曲からロイ・オービソンやAEROSMITHなどのボーカル曲まで、1曲1曲を取り上げるとそれぞれカラーが異なる楽曲群を、→Pia-no-jaC←は今回も彼ら以外の何者でもない色に染め上げることに成功している。

 彼らのことを知らない人からすれば「そもそもピアノと打楽器のみで、オーケストラやボーカル曲を再現・表現できるのか?」と思うことだろう。だが、彼らには10年以上にわたるキャリア、そして2009年からスタートした『EAT A CLASSIC』シリーズで積み重ねた実績がある。原曲のイメージを損なうことなく、彼らならではのカラーを加えていくこと(例えばメジャーキーをマイナーキーに変えたり、3拍子を4拍子に変えたり、ロックやラテン、スウィングジャズ、ブルーグラス、果ては演歌などの要素を加えたり)で「カバーなのにオリジナル」へと昇華させていく過程は、オリジナルアルバムを制作するそれとなんら変わりなく、→Pia-no-jaC←に関してはオリジナル曲のみで構成されるアルバム、『EAT A CLASSIC』シリーズすべてが“オリジナル”アルバムなのだ。

→Pia-no-jaC← 「モーツアルト/アイネクライネ Wolfgang Amadeus Mozart/Eine kleine Nachtmusik」short ver.

 そういう観点で今回の『Cinema Popcorn』に接してみると、各曲ともおなじみのフレーズはそのままに、彼ら流の“お遊び”を存分に堪能することができる。ストリングスのイメージが強いM-1「PROLOGUE: BOOK II AND THE ESCAPE FROM THE DURSLEY(ハリー・ポッター)」ではエフェクト効果などスタジオ録音ならではの技術を多用し、ピアノとカホンだけで原曲の空気を残しながら→Pia-no-jaC←の楽曲へとしっかり昇華させている。続くM-2「The River Kwai March ; Colonel Bogey」も行進するよりもスキップしたくなるような朗らかさが加わり、曲が進むにつれて体がウズウズして思わず踊りたくなってしまうのではないだろうか。

 さらにM-3「GHOST BUSTERS」ではHIRO(Cajon)の掛け声がふんだんに活かされ、聴いてるうちに例のキメセリフを一緒に叫んでしまうリスナーも多いことだろう。それにしても、シンプルな構成の原曲をここまで大胆にアレンジし、しっかり自分たちの色に染め上げてしまうのはさすがの一言。シンプルだからこそ原曲のイメージが強いわけで、こういう曲こそカバーが難しいと思うのだが。それをいともたやすく(いや、実際にはかなり苦労しているのかもしれないが)カバーしてしまう→Pia-no-jaC←の力量に改めて驚かされたのが、この1曲と言える。

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