メタルフェスはなぜ欧州で大人気なのか? 出演果たしたドラマーが現地レポート

メタルフェスはなぜ欧州で人気?

 先日FUJI ROCK FESTIVAL '16が開催された。日本にはFUJI ROCK FESTIVAL、SUMMER SONIC、ROCK IN JAPAN FESTIVALをはじめ、数々の音楽フェスが存在する。

 どのフェスも基本的にノンジャンルではあるが、そういったフェスの中でハードロック/ヘヴィーメタルのバンド(以下HR/HM)が出演する数は、全出演バンド母数から考えると極めて少ない。そもそも日本ではHR/HMは市場規模が狭く、活動規模の大小問わず、メジャーレーベルと契約できているバンドは数えるほどだ。

 ならHR/HMファンは主にどこでフェスを楽しむかというと、HR/HMに特化したLOUD PARKやKNOTFEST、OZZFEST JAPANなどになる。3つもあるじゃないかと思われそうだが、KNOTFESTは2014年と2016年、OZZFEST JAPANは2013年と2015年の2回開催されたのみで(※KNOTFEST'16は11月5日と6日に開催予定)、安定して毎年開催されているHR/HM系フェスはLOUD PARKしかない。

 一方海外はどうかというと、ヨーロッパを中心に、日本よりもはるかに規模が大きいHR/HMに特化したフェスがいくつも存在する。例えば、ドイツのWacken Open Air、フランスのHellfest Open Air、イギリスのDownload Festivalがそうだ。他にもBloodstock Open Air、NOVA ROCK、Brutal Assault、Graspop Metal Meeting、Sweden Rock Festivalなど、とにかく巨大なフェスが多い。

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今年のtons of rockは6月23日〜25日にノルウェーのハルデンで行われ、3日間で約2万人を動員した。

 ヨーロッパで巨大なHR/HM系フェスが多いのは市場の背景のちがいだろう。今年5月のアメリカのホワイトハウスでバラク・オバマ大統領が、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデンの首脳陣とサミットを行った際、フィンランドのメタルについて賞賛し、実はオバマ大統領もメタルファンだと公言したことがあったが、フィンランドや、ノルウェー、スウェーデンなどはメタルを“輸出品”として政府が活動をバックアップしていたりするのだ。これら北欧の国々では音楽活動に対して、国が資金援助や練習場所、場合によっては楽器まで提供するというのだから驚きだ。

 そういったことからHR/HMというジャンルと一般市場との結びつきは、日本と比べものにならない。ブラックメタルバンドのDIMMU BORGIRはノルウェー国王の前で演奏したことがあるくらい人気だし、同じくポーランドのブラックメタルバンドであるBEHEMOTHのリーダーであるネルガルはTVの人気オーディション番組に審査員として出演してしまうなど、ヨーロッパ全体で見ると、日本的に表現すればお茶の間への浸透度が異なるのだ。日本ではニッチなジャンルであっても、ヨーロッパ、特に北欧では少なくともニッチなジャンルではない。

 それだけHR/HMが主流となっているヨーロッパで開催されるフェスに、日本のメタルファンが憧れを持つのは当然なのだが、実際のところ我々日本人では距離や渡航費の問題で行くのが難しかったりする。しかし、実際に参加してみると「フェスの巨大さ」ということ以外にも、海外ならではのユニークさというものを感じることができるだろう。

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 筆者はこれまでに、日本のプロモーターであるEvoken de Valhall Productionの協力と、ブラックメタルバンドの Ethereal SinのリーダーであるYama Darkblaze氏(以下Yama氏。彼はEvoken de Valhall Productionの代表でもある)の広い交流関係で、互いに協力関係のイベンターとの縁もあり、同バンドで幸運にも昨年Wacken Open Air、今年になってノルウェーのTons of Rockに出演する機会を得た。その経験から感じることができたのは、以下のことだ。

 一つ目はアーティストの距離だ。日本人の感覚でいうと、アーティストにはなかなか近づけるものではないと思わないだろうか。しかし、海外のフェスに参加してみると、日本でも有名なバンドメンバーがすぐ近くで食事をしているなんてことがよくある。目が会えば気軽に“Hello”と挨拶されたり、その気になれば会話することもできたりする。とてもアーティストの距離が近いのだ。もちろん全てのアーティストがそうではないし、ビッグネーム中のビッグネームアーティストはセキュリティの問題上、やたらめったらバックステージから外に出たりはしないのだが、日本よりアーティストの姿勢ははるかに近いと感じるだろう。

 一方、逆に海外のフェスに参加したことで、日本のアーティストにはやはり距離があると感じてしまったこともある。それはとあるフェスで、日本の超人気ヴィジュアル系バンドと一緒の出演日、かつ出演時間も非常に近くになったときのことだ。普通に考えれば楽屋やバックステージで挨拶くらいはできる可能性が高いのだが、その日、彼らが出演する前後は楽屋近辺を含むバックステージが、完全にバンド関係者以外立ち入り禁止となってしまった。彼らはヴィジュアル系として売っているので、世界観を大事にし、オフステージの顔を一切見せないプロ意識からそうなったのであろう。だからそれが良いとか悪いとかではないのだが、日本のアーティストの距離というものを改めて感じたものだ。

 二つ目はファンの楽しみ方だ。海外ファンのライヴの観方は、バンドに興味があろうがなかろうが、とにかく全身で音楽を楽しむという、ややお祭り騒ぎに近い姿勢を感じる。モッシュなども周囲に気づかいすることなくブンブンと首や腕を振り回し全力で暴れ、酒を撒いたりする。もちろん日本のファンでも負けず劣らず大暴れする人がいるが、やはりそれでも日本人にはどこか、周囲に迷惑をかけてはいけない、という心づかいを感じたりするものだ。体の大きさのちがいなどもあり、海外でのモッシュの危険度は日本のはるか上だ。

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