『Mステ』生披露で分かった! 桑田佳祐の新曲「ヨシ子さん」はなぜおもしろく新鮮なのか?
ソロとしては3年ぶりになる桑田佳祐のニューシングル「ヨシ子さん」が6月17日、『ミュージックステーション』で初披露され、その全貌を明らかにした。この「ヨシ子さん」のよさやすばらしさを形容する時に、もっともしっくりくるのが「おもしろい」という言い方なのではないかと思う。「いいねえ」「すばらしいねえ」ではまだおとなしい、この曲を表すには。
「R&Bって何だよ、兄ちゃん? HIPHOPっての教えてよ もう一度」「EDMたぁ何だよ、親友? “いざ”言う時に勃たないヤツかい?」などと、ベタなボケを交えつつの、時流に置いて行かれるオッサンである己の戯画的な描き方。「サタデー・ナイトはディスコでフィーバー」「ナガオカ針」といった、「あえて」「わざと」な死語の入れ方。「オッサンそういうの疎いのよ 妙に」とか「上鴨そば」みたいな普通の日本語を、メロディへののっけ方と歌い回しによって英語のように響かせる、おなじみの、そしてマジカルなあの手法。ディランとかボウイといった洋楽レジェンドのぶちこみ方。サビで急にラブソングになる乱暴さ、かつ「真夏の太陽」「情熱の恋」「青春」「エロ」というワードににじむ「とりあえず入れときます」感から漂う痛快さ。そして、曲タイトルにもなっている「ヨシ子さん」という名詞の唐突さ、意味のわからなさ、そしてそういう、言わば「手続きをすっとばす感じ」が、聴き手に届いた時点で「でもあり」「というかあり」「むしろ大あり」になってしまう、桑田佳祐しかやらないし、他の人であればやりたくてもやれないであろう新鮮さ。
もちろん、歌詞だけではない。ダブもヒップホップもインド音楽もブルースもごたまぜにした、でもシンプルな、そしてほぼひとりで打ち込みで作ったことがあきらかな、密室性の高いトラック。コードにのって歌えばそれがメロディになる男=桑田佳祐の面目躍如な、自在かつ自由なボーカル。女性ボーカルやディストーション・ギターの差し方、シンセベースの這わせ方、パーカッションのばらまき方……総じて、ひとりでスタジオで(もしくは自室で)、嬉々としながら音を足したり引いたりかぶしたり消したりしている姿が目に浮かぶ、この空気感。齢60を迎え、大物ミュージシャンとしての座に安住するどころか、思いきりカッ飛んだことをやりまくっているのだから、この曲がおもしろくないわけがない。
いずれにしても。桑田佳祐ってこんなことをやるんだ? 桑田佳祐ってこんなミュージシャンなんだ? という曲ではない。こんなことをやる人です、こんなミュージシャンなんです、ということは、ファンならみんな熟知しているはずだ。はずだが、「そういえばしばらくやっていなかったも、こういうの」ということにも、聴けば、気づくかもしれない。そして、やっぱり桑田にはこういうこともやり続けてほしい、ということにも、気づくのではないか。