1stアルバム『Progress』インタビュー

kōkua、メンバー全員インタビュー(前編)「5人の音楽性がミックスされて“らしさ”が生まれる」

 スガ シカオ(Vo)、武部聡志(produce,key)、小倉博和(Gr)、根岸孝旨(Ba)、屋敷豪太(Dr)。日本を代表するミュージシャンたちが集うkōkuaが、6月1日に1stアルバム『Progress』をリリースした。NHKのドキュメンタリー番組『プロフェッショナル 仕事の流儀』の主題歌起用をきっかけに2006年に結成された同バンド。10年目の今、彼らはなぜ再び集まり、1stアルバムを作るに至ったのか。そして、その音楽が瑞々しく豊かなバンド・サウンドへと結実した理由とは? 今回リアルサウンドでは訊き手に柴那典氏を迎え、メンバー全員にロングインタビュー。その内容を前後編にわけて掲載する。前編では、プロジェクトのきっかけから楽曲制作の詳しいエピソードまで、1stアルバム『Progress』についてじっくりと話を訊いた。(編集部)

「今まで積み上げた音楽をぶつけ合うことから生まれる何かがある」(武部聡志)

――今回、kōkuaが10年ぶりに集まってアルバムを制作するというプロジェクトは、まずどういうところから始まったんでしょうか?

武部聡志(以下、武部):今回は、スガくんの声掛けですね。スガくんが「やろうよ」と言ってくれたんです。

スガ シカオ(以下、スガ):番組(NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」)が10周年だったということがまずあって。僕ら、シングル1枚しか出してないんですよね。だからアルバムという形で残そうとはずっと言ってたんです。でも、忙しいのもあってみんな集まる時間もなかなかなくて。10周年を機に、これはけじめだし、いろんなものを巻き込んで、「Progress」という曲を作ったkōkuaというバンドのアルバムを作ろうと思って声を掛けたのが始まりです。

――最初に「Progress」という曲を作った10年前はどんな感じだったんでしょう?

武部:最初は僕ですね。それもまずは番組ありきです。「プロフェッショナル」という番組が立ち上がるにあたって、プロ集団のような架空のバンドを作りたいというアイディアが浮かびました。それぞれがミュージシャンでありながらプロデューサーでもあるような人たちをメンバーにした、プロのバンドというイメージで作ったのがきっかけです。

――では、皆さん、今回のタイミングで再びkōkuaをやろうと声がかかって、どんな風に感じられましたか?

小倉博和(以下、小倉):「ああ、やるんだな」って(笑)。でも「久しぶりに会った」って感じは全然なかったですね。武部さんのプロデュースワークの時に僕がギタリストで呼ばれたり、根岸くんや豪太くんともセッションとかいろんなところで会ってたので。

スガ:そう。俺もしょっちゅう会ってる。個々で。

根岸孝旨(以下、根岸):ちょいちょい会ってるんですよ、なんやかんやで。だから今回の話が来た時も「え、もう10年も経ってるっけ?」みたいな感じだった。「まだ3年くらいじゃない?」みたいな(笑)。

屋敷豪太(以下、屋敷):でも、前からこのバンドでアルバムを作りたいなってずっと思ってたから。やっと念願が叶ったというのもありましたね。

武部聡志

――武部さんとしてはどうでしょう?

武部:みんなキャリアを積んで、日本を代表するミュージシャンが集まってやるわけだから、ちゃんとビジネスベースに乗らないと嫌だなと思ったの。ツアーも集客できるし、アルバムもある程度のセールスが作れるようなものじゃなかったらやりたくないって。だから、こうやって頑張って取材も皆でやるし(笑)。みんなアマチュアじゃないから、趣味で「好きな音楽やろうぜ」っていうのとはちょっと違うとは思ってますね。

――武部さんはkōkuaというバンドを立ち上げた時に、プロデューサーとして活躍されてきた方々が集まることでどういう化学反応が生まれるという意図があったんでしょうか。

武部:みんな、自分がプレイヤーでありつつ、俯瞰で作品を見ることができる人たちだと思うんですよ。だから、すごく大人なロックバンドができるんじゃないかとは思いましたね。自分のやりたいことを闇雲にやるんじゃなくて、全員が曲のサウンドやタッチを客観的に見られるという。

「回数を増やすほど『kōkuaっぽく』なった」(屋敷豪太)

屋敷豪太

――皆さんはどうでしょう?

根岸:僕は、どこに行ってもあまり意識は変わらないです。その時その時にやる人をいつも「バンド」と思ってやってますね。

武部:すごいね、良い話だね。そんなこと、思ったことないや(笑)。

一同:(笑)。

屋敷:僕も同じような意見なんですけど、このメンバーでやる以上、そこでできる音が絶対あるわけで。やっぱり回数を増やしていけばいくほど「kōkuaっぽいね」っていう言葉が周りに出てくるんですよ。やっぱり、そういうのがバンドのサウンドっていうものなんだなと思うので。そういうのをやってると楽しくなりますね。

小倉:互いに信頼もあるし、あとみんな愛嬌があるというか、根が明るいっていうか、そういうところがあるから楽しくやっていけるんだとも思うんですね。

――スガさんとしては、kōkuaの活動をどう捉えてらっしゃいますか?

スガ:ミュージシャンとしてkōkuaは別の人生なんですよね。シンガーソングライターというのは、我を出して、勝ち進んでいかないといけない世界だから。そういう風に生きてきた音楽人生だったんだけど、でもkōkuaでは僕が一番キャリアもないし、一番年下なんですよ。だから、ここではあんまり我を出さないようにしてる。ここで我を出したらソロと同じになっちゃうから。だから、ここではみんなが思っていることをどれだけ言葉にできるかを考えて詞を書くんだよね。「今メンバーの目には世界はどういう風に映ってるんだろう」とか、顔を考えながら詞を書く。「俺がこう思う」っていうソロの詞の書き方じゃないんだよね。だから、別の人生なんですよ、僕にとって。

――ソロとは逆のやり方なんですね。

スガ:そうですね。だから、歌い方も「このバンドだったらこう歌うのが一番かっこいいだろうな」って考える。自分のことは置いといて、バンドのために献身的になるというか。献身なんて言葉は僕の音楽人生になかったからね(笑)。

武部:バンドの名前がそうだもんね。

――kōkuaというのはハワイ語で「協力する」とか「協調する」という意味を持った言葉なんですよね。

スガ:だから、そういう名前を僕はつけたかったんですよね。

小倉:そうですね。名は体を表すってやつですね。

――先ほど「kōkuaらしさ」みたいなのが自然と生まれてきている仰ってましたが、それはどういう風にできてきたものなんでしょう?

武部:僕はいろんな現場でいろんなミュージシャンとセッションをやってきて、いろんな制約の中で音楽を作っていたりするのね。で、こういうバンドでやる時っていうのは、そういう音楽的な制約がすごく少ないんだと思うの。みんなもそうだと思うけど、それぞれのキャリアとか音楽性とかがすごく出てくるじゃない? だから、多分みんなが引き出しを開けて、今まで積み上げた音楽をぶつけ合うことから生まれる何かがあるんだと思う。この5人の音楽性がミックスされて、それが「らしさ」に結びついていく。それがアルバムを作っていく過程でハッキリ見えてきたんじゃないかな……。

屋敷:それに、最初の「Progress」の曲をやった時、その音を出した瞬間に、何かがもうあったんですよね。

スガ:そうそう、あの曲は1テイク目なんです。集まって最初に音を出した時のテイクが録音されている。

武部:逆に、2回目・3回目をやったら、1テイク目を上回れなかったくらい、最初にバッと音を出した時のきらめきがすごかった。

小倉:そういう意味では、あの瞬間にできたものがあったんだね。

スガ:ね。ちょっと怖いくらい。それに、アルバム曲も1テイク目か2テイク目がほとんどなんですよ。だから、そういう体質の人たちなんだって思う(笑)。

スガ シカオ

「「Progress」は人生を変えた曲」(スガ シカオ)

――「Progress」はアルバムのタイトルにもなっているわけですが、生まれてから10年経って、改めてこの曲はどういう位置付けになっていますか? 

スガ:どうやって作ったかも覚えてないし、自分で作った感は全然ないんだけど、僕の中では1、2を争う「人生を変えた曲」ですね。この曲があるとないとでは自分の人生が変わってたと思う。そういう、すごく重要な曲になってしまった感じはありますね。

――どう変わったと思いますか?

武部:サラリーマンの人たちに声掛けられるようになったんじゃない?(笑)。

スガ:そうなんですよ。サラリーマンとか受験生に「あの曲で一歩前に進めたんです」って。それに海外でも「プロフェッショナル」は放送してるんです。だから、どこの国でも、在住している日本人のコミュニティの方はみんなこの曲を知ってる。恐ろしい知名度、浸透度なんですね。

武部:曲を作った時に思ってたことと同じなんだけど、この曲自体を知ってる人はたくさんいるんだけど、kōkuaってバンド名も、メンバーが誰なのかも知らない人がいっぱいいるわけ。それが逆に狙いだったような気がします。

スガ:俺が歌ってるって知らない人もいっぱいいますからね。

武部:うん。そういうことをやりたかった。僕は、ポップ・ミュージックっていうのはすごく普遍性が大事だと思っているから、普遍的に残る曲をいくつ作れるかっていうのが自分の中のテーマなのね。そういう意味で、これは曲が一人歩きをした。そういうことを自分のバンドの曲でやれた。それはもちろん、思い入れは深いですね。

小倉:それに、今もこの曲はそうやって一人歩きしている上に、バリバリ現役の曲じゃないですか。そういう意味でも魔法のかかったような曲ですよね。

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