柴那典「フェス文化論」 第12回
「山フェス」と「海フェス」どう発展してきた? レジャー文化と音楽カルチャーの関係を読む
「山フェス」と「海フェス」
そして、レジャー文化という面から見ると、2010年代の野外フェスには、もう一つの「断層」が見えてくる。それは、言うなれば「山フェス」と「海フェス」における文化の差異だ。
これまで、野外フェスは「アウトドア型」と「都市型」の二項対立で語られることが多かった。「自然の中で音楽を体感する」というコンセプトを貫くフジロックと、東京・大阪の2会場で開催される都市型フェスの代表としてのサマーソニック。その二つを象徴に様々なフェスがマッピングされてきた。
しかし、レジャー文化との関わりから捉え直すと、もはや「アウトドア型」と「都市型」という分類だけでは、今の野外フェス文化を巡る状況は語りきれないのではないだろうか? 最近では筆者はそう考えている。
レジャーの定番と言えば、山と海。端的に言えば「山フェス」と「海フェス」というのは、山や高原で開催されるか、ビーチや海辺で開催されるのかという、それだけの分類だ。ただ、その二つの違いは、単なる場所だけでなく、ラインナップから見える音楽の方向性や、参加者のファッションや、さまざまなカルチャーの差異に繋がっている。
フェスの公式アフタームービーを見ると、そのことが一目で伝わる。
まず「山フェス」の代表はフジロックだ。朝焼けに染まるテントから始まるアフタームービーの動画の中ではヨガやハンモックがフィーチャーされる。麦わら帽子をかぶる男子、髪に花飾りをつける女子も多い。
一方、同じスマッシュ主催のフェスでも、キャンプ参加が前提となる『朝霧JAM』は「山フェス」の雰囲気がさらに強く漂う。
同じく「山フェス」の代表格が、信州やぶはら高原こだまの森で開催される『TAICOCLUB』。オフィシャルのアフタームービーにはリラックスして楽しむ観客の姿が映し出されている。ゆったりとしたチュニックやワンピース、民族衣装のような服装を身にまとった女性も多い。
一方、今の時代の「海フェス」の代表を挙げるならば幕張海浜公園で開催されたEDMフェス『Electric Zoo Beach Tokyo』と言えるだろう。
こちらのムードは大きく違う。お客さんの肌の露出度が高く、フェイスペインティングとサングラス着用率が高い。語弊を恐れずに言えば、パーティー感が強い。それはEDMフェスだからと言うことも大きいだろうが、逆に言えば、昨年に初開催されたこのフェスが山ではなく海を選んだ、ということに何らかの必然性を感じとってしまう。
そして、日本のEDMフェスの代表は『ULTRA JAPAN』。こちらはお台場の特設会場を舞台にしているので「都市型フェス」と言ってもいいのだが、やはり会場のムードは『Electric Zoo Beach Tokyo』と共通するものを感じる。
残念ながら今年は開催されないのだが、神奈川・リビエラ逗子マリーナ特設会場で2015年まで開催されてきた『MTV ZUSHI FES』も、「海フェス」の代表と言っていいだろう。こちらはレゲエ、ヒップホップからJ-POPシーンの人気者まで集う幅広いラインナップを実現してきた。水着のままで楽しめることをコンセプトにしてきただけに、開放的なムードに包まれている。
https://www.facebook.com/MTVZUSHIFES/videos/828385663913474/
2010年代に入り、フェスシーンは「バブル」を経て「飽和」の時代に入っている。かつては野外フェスは「夏の定番」だったが、今は春から秋まで各地で開催され、テーマパークや花火大会と同じように、コアな音楽ファン以外にもレジャーとしての認知の広がりを経た。市場規模は安定しつつ、毎年のように新規参入が相次ぎ、一方で淘汰も進んでいる。
それだけに、もちろん音楽が主役であるのは間違いないのだが、フェスというものを行楽文化やレジャー文化の歴史の側面から捉え直すというのことも、大事な視点となっているのではないだろうか。
■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」/Twitter