宗像明将のチャート一刀両断!
欅坂46「サイレントマジョリティー」の突破力! 楽曲とMVの創作意図を読み解く
参考:2016年04月04日~2016年04月10日のCDシングル週間ランキング(2016年04月18日付)(ORICON STYLE)
2016年4月18日付の週間CDシングルランキングの1位は、欅坂46のデビュー・シングル『サイレントマジョリティー』。発売初週に261,580枚を売り上げ、女性アーティストのデビュー・シングルの初週売り上げ枚数記録で歴代1位になったと報じられました。その勢いは、最近まで欅坂46を「乃木坂46の関連グループ」ぐらいにしか認識していなかった私にも不思議ではありませんでした。なぜなら、特にAKB48グループや乃木坂46のファンではない人々のツイート経由で「サイレントマジョリティー」のMVを知り、繰り返し見ることになったからです。山戸結希が監督した乃木坂46の「ハルジオンが咲く頃」のMVと同様に、圧倒的なクリエイティヴィティでAKB48グループや乃木坂46のファンの「外部」にまで乗り越えてきた作品でした。
「サイレントマジョリティー」のMVが撮影されたのは、渋谷の再開発工事現場。渋谷ヒカリエの前の工事現場かと思いきや、東急東横線の旧渋谷駅跡であることも後に知ります。撮影にクレーンを多用したであろうダイナミックな映像は、欅坂46の「振り付け」というよりはパフォーマンスのようなダンスとともに、最初から最後まで緊張感も漂わせています。JR渋谷駅のホームで踊るシーンが一瞬だけ挿入されていることにも目を奪われました。これほどまでに平手友梨奈をセンターとして押し出すのか、という驚きを残しつつ「サイレントマジョリティー」のMVは終わります。
渋谷と再開発工事現場。「サイレントマジョリティー」のMVを見て真っ先に連想したのは、『新世紀エヴァンゲリオン』で知られる庵野秀明が監督した1998年の実写映画『ラブ&ポップ』でした。『ラブ&ポップ』を模したかのような1990年代的な映像も最近散見しますが、『ラブ&ポップ』という映画の中で真に時代性を決定づけているのは、実は映像の画質などではなく、QFRONTなどの渋谷の工事現場の風景です。
現在渋谷駅前にあり、TSUTAYAやスターバックスコーヒーが営業しているビル・QFRONTは、『ラブ&ポップ』撮影当時はまだ工事中でした。それゆえに、『ラブ&ポップ』を模したかのような映像で無神経にQFRONTが写っていると、一瞬で冷めた気分になってしまいます。そして、QFRONTに限らず渋谷の工事現場が多く映りこんでいる『ラブ&ポップ』という映画は、渋谷と開発工事現場の関係を時代性とともに深く私に刷り込みました。『ラブ&ポップ』が、オウム真理教によるテロがいつ起きても不思議ではなかった1995年から数年を経た渋谷の空気を記録しているように、欅坂46の「サイレントマジョリティー」のMVもまた2016年の空気を濃密に捉えた映像として私の目には映ります。再開発工事の風景とともに。
MVから目を離すと、「サイレントマジョリティー」は不思議な楽曲です。アコースティック・ギターやクラップになぜか漂うフラメンコ風味。そして歌詞の「どこかの国の大統領が / 言っていた」から「行動しなければ / Noと伝わらない」に至る部分は、SEALDsのような近年の運動を連想させます。しかし、「サイレントマジョリティー」を直球のメッセージソングとして捉えるには、私は歳を取りすぎているようです。秋元康がかつて、小泉今日子の「なんてったってアイドル」のような、メタでアイロニカルな歌詞を書いていたことを知っている世代なのですから。欅坂46の若いファンと私の世代とで、「サイレントマジョリティー」の歌詞の受容に違いが出る部分なのかもしれません。全員同じ衣装を着ている欅坂46が「似たような服を着て」と歌う部分には、かつてノエル・ギャラガーが『ミュージックステーション』で共演したAKB48を「マニファクチャード・ガール・グループ」とブログで形容したことも不意に思い出しました。しかし、「サイレントマジョリティー」のトータルなクリエイティヴィティの高さを考えると、そうしたギャップも意図的に残されているものかもしれないと身構えてしまうのです。