乃木坂46が14thシングルで表現した“未来へのバトン” 作品に込められたストーリーを読み解く

“在校生の歌”としての「ハルジオンが咲く頃」

 今回はライブ向けの煽り曲が収録されているわけでも、「乃木坂の詩」や「悲しみの忘れ方」のようなエンディングテーマが収録されているわけでもないが、それぞれの楽曲にあるバックのストーリーが面白い。表題曲の「ハルジオンが咲く頃」もまさにそんな曲だ。

 「強がる蕾」が卒業生・深川麻衣のための歌なら、表題曲「ハルジオンが咲く頃」は乃木坂46に残る“在校生の曲”と位置付けることもできる。曲の詞には<いつもそばで微笑んでいた日向のような存在>、<まるで母親みたいに 近くにいる気配に安心した>など、深川麻衣を想起させるような言葉が散りばめられており、“ハルジオンが咲く頃”に、そんな深川麻衣の姿を乃木坂46のメンバーが思い出すだろうという詞になっている。卒業ソングの定番は旅立つ卒業生が歌う曲だが、この表題曲は深川麻衣が卒業した後も歌い続けられるよう、グループへと残るメンバーの目線にしてあるのだろう。

 また、表題曲は前作と同じく、Akira Sunset、APAZZIのコライトによるものだ。ただ、前回がピアノとアコースティックギターの音色が優しく心に触れる曲だったのに対し、今回はリッチなストリングスの重ね方や、ブリッジでのEDM風ともいえるキックの使い方など、作家としての幅広さを印象付けてくれている。乃木坂46の曲はストリングスアレンジを肝とする楽曲が多いが、秋元康との間で何度も直したという今回のストリングスは、深川麻衣の花道を祝福するように、高音も低音もとにかく分厚い。

 そして今回MVを担当したのは、表題曲のMVでは初の女性監督である山戸結希監督だ。彼女は、衣装や照明による鮮やかな色使いと女性の可憐さを引き立たせる演出で、“理想の女子校”をMVの中に作り上げている。西野七瀬のソロ曲「ごめんね、ずっと…」のMVの監督を担当しているのも彼女であり、同曲では西野が最後に発した台詞に胸を締め付けられたわけだが、今回もMVの最後で、深川麻衣による卒業の言葉が贈られている。

 「ハルジオンが咲く頃」は、深川麻衣を送り出す上で最高の楽曲となった。が、この曲のストーリーはまだ終わらない。この曲は深川麻衣が卒業して終わってしまう曲ではなく、前述の通り“歌われ続けること”を目的とした曲である。3rdアンダー曲「涙がまだ悲しみだった頃」でセンターを務めていた伊藤寧々が卒業した後、「伊藤ちゃんず」と呼ばれ親しまれていたもう1人のメンバー・伊藤万理華がこの曲のセンターを引継ぎ、より一層ファンに愛される曲としてくれた。そして深川麻衣卒業後、この「ハルジオンに咲く頃」を真ん中で歌い継いでくれるのは、2期生の堀未央奈だろう。これまで乃木坂46の振付で、曲終わりに2人のメンバーがここまでピックアップされるようなことは無かった。だが、今回は最後に深川と堀がセンターポジションに立って楽曲を締めくくっている。選抜でセンターを務めたメンバーとしては初めてアンダー落ちを経験し、2作のアンダー曲センターを経て、今回の選抜で唯一アンダーから昇格をしたのは、このためだったのかもしれない。「ハルジオンが咲く頃」は、堀未央奈がセンターとしてこの曲を歌い続けることで完成する曲なのである。卒業した深川麻衣の存在とともに、この曲が愛され続けるよう歌い続けてもらいたい。

 14thシングルの発売が迫る頃、名古屋では1期生永島聖羅の卒業ライブがアンダーライブの中で行われた。永島は選抜経験こそ1度のみで、アンダーでもセンターに立つことはなかったが、その太陽のような明るい性格で、アンダーライブをここまでの規模に引き上げた、グループにとって功労者の1人であることは間違いない。そして、彼女の背中を見てさらなる決意を胸に闘志を燃やしているのが、2期生でアンダーメンバーの北野日奈子であった。同い年であり、7th、8thと2期生の中では早い段階で昇格を経験している堀未央奈と北野日奈子。それぞれ挫折を経験したが、今ならそれぞれが受け取ったバトンを落とさずに坂を上ってくれると思う。きっとこの先、乃木坂46の歴史を振り返るとき、14thシングルは『次の世代へのバトンが繋がれた作品』と言われるようになるだろう。

■ポップス
平成生まれ、音楽業界勤務。Nogizaka Journalにて『乃木坂をよむ!』を寄稿。

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