カフェ・カンパニー楠本修二郎×InterFM897奈須裕之×KKBOX山本雅美が語り合う、食とラジオと音楽ストリーミングの未来

『897 Selectors』に学ぶ、食とラジオと音楽配信の親和性

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山本雅美氏。

「僕たち自身が新しいコミュティを作っていけば、新たな聴き手、受け手のコミュニティも次々に出来る」(山本)

――サービスを横断するといえば、『KKBOX』が『タイムアウト東京』とタッグを組んだ『TOKYO MUSIC BOX』もまた、バーやカフェなどの実店舗とプレイリストサービスを繋げるものだと思うのですが。

山本:さっきの「四国ばやし」のように、“その場所”や“その人”だからこそおすすめできる曲というものが必ずあるはずなんです。でも、その人に会う機会もなく、その場所へ行ったことのない僕らでは、それを見つけることはできない。バーに行くと、自然に音楽へ耳を傾けたり、その音楽を肴にマスターと会話しますよね。でも、知らないお店の扉はなかなか開けづらいから、東京を中心に街の様々な情報ネットワークのある『タイムアウト東京』と協力して、そこにいる店主とお店の雰囲気や音楽を紹介しようと考えたんです。

楠本:先日うちのグループの『THE GUINGUETTE by MOJA』も紹介していただいたんです。

――ちなみに、取材を重ねた中で特に印象に残っている店舗はありますか?

山本:渋谷の『ソワレ』というシャンソンバーですね。そこで、「あなたのところのサービスは、ほかのところに比べて、フランスの音楽がたくさん入っている」と言われて。他よりも充実しているという強みに気付かせてもらえました。ほかの店舗さんでも毎回取材するたびに発見だらけですね。そこにあるコミュニティから発信される音楽は、ヒットチャートとはまた違うものだらけで。

――コミュニティというお話に関連した質問なのですが、楠本さんの著書『ラブ&ピース&カンパニー』では、『WIRED CAFE』の開店について「コミュニティを作る」ことが、大きな理由のひとつであったと記されています。実際の店舗運営において、コミュニティ作りにはどの程度の重きを置いているのでしょうか?

楠本:骨髄みたいなものなので、濃度や重さまでは測れない(笑)。もちろん、これは各店舗で違うことでもあるので、足りていないお店もあるかもしれません。ただ、大なり小なり、メンバーの生き方には入ってきていると思います。

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――ラジオ側の意見として、奈須さんはどういう風にコミュニティを作っていきたいと思っていますか。

奈須:ラジオとコミュニティの接続を考えたとき、一番しっくりくるのは各地方ごとのコミュニティFMだと思うんです。その街の情報や雰囲気、そこで流れる音楽をテレビよりも近い目線から伝えて、交流の場としても機能している。そういう意味で、InterFM897は天王洲という地域からほかの在京FM局にないものをどう提供していくかというときに、周りの人たちと交流をしながら、リスナーを一緒に育てていかなければと思ったんです。

――育てていくとは?

奈須:今はリスナーが音楽の情報を収集するときに、選択肢が多すぎるくらいある時代ですよね。そのなかで僕らが聴かせたいと思った音楽を「こういう音楽はどう?」とおすすめして、どんどん音楽に詳しくなっていってほしいんです。

楠本:今の話って、「音楽」を「コーヒー」に置き換えれば、カフェにも通じる考え方だと思うんです。僕はずっと「ラジオとカフェの相性は良い」と思っているのですが、地域のカフェとコミュニティFMが連動して、そこにしかない空間を作り出したら、どんどん新しいコンテクストが生まれてくるんじゃないかなと。

奈須:そうですね。ラジオと地域コミュニティの話だと、スコットランドの『T in the Park』というフェスのことを説明するのがいいかもしれません。こちらでいうところの『FUJI ROCK FESTIVAL』みたいなものなのですが、向こうは街全体がフェスムードになっていて、ホテルでラジオを付けても「どのアーティストが良かった」みたいにずっと『T in the Park』の話をしながら、ライブ音源をオンエアしていて。移動中のバスでも、新聞でもテレビのニュースでも同じような盛り上がりを見せているんです。東京はそういったものを作ることが難しいかもしれませんが、「一つのことでみんなが盛り上がる」という空間が理想ですよね。

楠本:いいですね! 天王洲はそういう仕掛けが似合う街だと思います。

奈須:中心部にないからこその強みはありますよ。IT企業やスタジオなど、交流しやすい文化圏の会社さんもありますし、先日は船上ライブを実施しました。空港の玄関口でもあるので、海外から来た方が立ち寄ることも多い。だからこそ、横の繋がりを活かして、もっと天王洲という街全体を活用して、音楽をプレゼンテーションしていきたいですね。

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――山本さんは音楽や『KKBOX』を通じたコミュニティ作りについて、どう考えていますか。

山本:アーティストの音楽や活動形態自体は以前より自由になり、アーティスト同士のコミュニティもアクティブになっていると思います。その一方、周囲のコミュニティというかルールが規制を掛けてしまい、届く範囲が限られてしまうことも多いんです。今日おふたりと話して思ったのは、自分たちはアーティストを作ることはできないけれど、アーティストとその周りの人たちが発信している音楽を、『KKBOX』がいろんなパートナーと連動して、広い範囲、違うアプローチで届けていけるのではないかということです。僕たち自身が新しいコミュティを作っていけば、新たな聴き手、受け手のコミュニティも次々にできて、まだまだ音楽は面白くなっていくと思います。

奈須:ラジオも、「こういうヒット曲をかけなければいけない」「英語や日本語以外の曲だと分かりにくい」みたいな既成概念が昔はありましたが、山本さんの言ったように“届け方”のバリエーションが広がってきたわけで、まだまだ面白くなっていきますよ。ただ、1時間ずっとジャズしか流れていない番組を、J-POPしか聴いたことのないリスナーに何の説明もなく聴かせても響かないから、その入り口をどう作るか、ということに力を注いでいきたいですね。一旦入口を作ってしまって、あとは『KKBOX』で掘り下げてもらえればと。

山本:そうですね。入口といえば、Wikipediaに載っている音楽のジャンルって、現存するだけでも700超あるんですよ。僕たちは、この700のどこから入ってきても大丈夫なように、現在自力で各ジャンルのプレイリストを作っていて。何千人、何万人が聴くものではないと思うのですが、これを聴いて特定のニッチなジャンルにハマった人が、面白い音楽を国内外に作ったり伝えたりしていってくれれば面白いなと思っています。

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