兵庫慎司の「ロックの余談Z」 第9回

レキシの「INAHO」はなぜ600円なのか? 「ミュージシャンとグッズ」の奥深い世界

 夏の『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』の3日目。フェスが終わった夜も、遅くまで後片付けをして茨城に泊り、翌朝、居残りスタッフ同士でレンタカーに乗り、東京に戻る途中のこと。

 高速のサービスエリアに寄ったら、能面をつけた人があちこちにいる。キャップの前んとこにかぶったり、後頭部に装着したりして、トイレにいたり、飲食スペースでなんか食っていたり。

 この能面は前日にフェスに出演したFACTのグッズであり、ロックファンなら「ああ、物販で買ったんだな」と、容易に察しがつくが、場所は地方のサービスエリアなので、それ以外の人たちにとっては意味不明だったであろう。「昨日、お祭りでもあったのかな? でもお多福ならまだわかるけど、能面売らないよな、普通」みたいな。FACTが最終日に出た年なので、2011年の夏のことです。

 そして。昨年、2015年12月16日の夜、両国駅のホームで同じようなことを体験した。

レキシの大人気グッズ「INAHO」。取り外し可能な家紋ロゴのチャーム付き。現在販売されているのは2号型「NEW! INAHO」で、1号型よりも「しっかり折れない作りとなった」という

 レキシの両国国技館ワンマンを観て帰路に着くお客さんの多くが、稲穂を手にしているのである。これ、ワンマンでもフェスでもレキシのライブの度に売り切れる大人気グッズ(正式名称は「INAHO」)なのだが、当然そんなこと知る由もない人もたくさんいるわけで、「なんだなんだ、この稲穂を持った集団は」「国技館でいったい何があったんだ?」と思われたであろう。

 かように、アーティストグッズが多種多様化している、というのは、以前、このコラムの「奥田民生の老眼鏡が大人気」という回でもネタにしたことがある(こちらです http://realsound.jp/2015/05/post-3256.html )。

 CDが売れなくなり、ライブとグッズが主な収入源になっている、また昔と比べるとグッズがよく売れるということもあり、どのアーティストも、Tシャツやタオルといった定番以外にもいろんなグッズを作るようになっているのは、とうに誰でも知っていることだ。

 たとえば。その老眼鏡(正式な商品名は「RGM」という)を作った、奥田民生が昨年秋に行った「奥田民生2015ツアー 秋コレ」のツアーで販売したグッズの一覧。

2015ツアーパンフ(珍ポーチ付き) 3,500円
秋コレHoodie(XS / S / M / L / XL) 7,500円
秋コレTeeオリーブ(WM / S / M / L / XL) 2,800円
秋コレTeeホワイト(WM / S / M / L / XL) 2,800円
OT×Lee 鉄板マスター養成エプロン2 6,500円
OT×RCMR 赤パン3(Men’s / Lady’s) 2,200円
秋コレTOTE BAG 4,000円
OT iPhone Case(6 / 6s用) 3,500円
RGM角(+1.0 / +1.5 / +2.0) 3,300円
RGMケース(赤 / 白 / カーキ) 各2,200円
秋コレタオル 1,500円
OTビンテージキーチェーン 1,000円
秋コレショッピングバッグ 800円

 以上13種類が、このツアーのグッズ。「秋コレHoodie」は、フード付きパーカーのことです。「OT×RCMR 赤パン3(Men’s / Lady’s)」は、読んでそのまま赤いパンツ(下着の)で、「3」というのは第3弾、3つ目のモデルであるということ。

 「OT×Lee 鉄板マスター養成エプロン2」というのは、以前から奥田民生はLeeとコラボしてジーンズなどを作っており、そのシリーズのひとつとして作られた、ジーンズ生地のエプロンだ。「2」だから、これも「1」があったということだ。

 「前回同様『コテOT』の刺繍入り。エプロンのサイドには、業務用のコテが引っ掛かる仕様になっています。全国のお好み焼き屋さんのユニフォームとして最適です」(SMAのグッズ通販サイト、ROCKET-EXPRESSより)

 だそうです。広島出身ならではのグッズと言えるが、じゃあほかの広島出身のアーティストが作るかというと、まあ作らないよね、OTだからだよね、とも言える。

 あ、コテというのは、あのお好み焼きを焼く時に使う金属製のヘラのことです。広島人は箸を使わず、このコテの小さいやつを使って、でっかい鉄板から直にお好み焼きを食べます。

関連記事