竹原ピストルは退路を断って歌い続けるーー兵庫慎司が最新作『youth』の切迫感を読み解く
『youth』の中の曲たちでは、ライブハウスへの愛着も歌われているが、同時に、それだけで充足感を得てはいけないし得られるものでもない、ということも歌われている。リード曲はさっき挙げた「よー、そこの若いの」と、松居大悟監督がMVを撮ったタイトル・チューンだが、「石ころみたいにひとりぼっちで、命の底から駆け抜けるんだ」や「午前2時 私は今 自画像に描かれた自画像」もすさまじい。「石ころみたいにひとりぼっちで、命の底から駆け抜けるんだ」では、自分はなぜそのような「日常がひとりツアー」な生活を続けているのか、何を考えているのか、何が望みなのか、どうなりたいのか、それはなぜなのか、などを、「独白する」というよりも、「自分で自分に言及して自分を追いつめていく」みたいなテンションで吐き出している。「午前2時 私は今 自画像に描かれた自画像」はツアー生活云々ではなく、自身の生き方についての歌だが、やはり自分の考えや感情を言葉にすることで、どんどん自分を追い込んでいくリリックだ。
前作の「俺のアディダス」などもそうだが、言葉にして歌うことで自分の立っている場所をあきらかにし、そこから降りたり後退したりすることができないように自分を追い込んでいるフシがこの人の歌にはある。で、その究極のような作品がこの2曲だと言える。「これでいいのか?」「ここでいいのか?」「このくらいでいいのか?」と己に問いかけ、「よくない」と結論づけ、「殻をぶち破りたい」「外に出たい」「まだ見ぬものを見たいし経験したい」「それまでは終われない」「それまでは死ねない」と渇望する。その焦燥が脳から神経を伝って両腕に下りて書かせたような言葉が並んでいる。
そんな生活を何年も続けていたら、そこまで自問自答せざるを得なくなるものなのか、もともとそこまで自問自答せざるを得ない人だからそんな生活をしているのか、どちらなのかはわからないが、聴き手をその自問自答に巻き込み、「で、自分はどうなんだっけ」と考えざるを得ない感情を呼び起こさせる力を、今のこの人の歌は持っている。
彼のように、自分はこんな気持ちでステージに立っている、自分はこんなことを考えながら音楽をやっている、こんなふうに感じながらツアーを行っている、ということを──つまり「歌を歌っていることを歌にする」アーティストは、ほかにもいる。たとえば、ほぼ全曲でそれをやっている極端な例がMOROHAだと思うし(そういえばMOROHAのアフロも竹原ピストルと同じく、メロを辿るというより語るように歌うアーティストだ)、たとえばそれをバンドマン以外も感情移入できるレベルまで普遍化することに成功したのが、フラワーカンパニーズの名曲「深夜高速」だと思う。竹原ピストルの歌も、「徹底的に自分を言及し追いつめ逃げ場をなくし退路を断つ」という方法によって、そのような普遍性を獲得しつつあると思う。
(文=兵庫慎司)
■リリース情報
『youth』
発売:2015年11月25日(水)
価格:¥2,900(税抜)
初回生産分のみ
スリーブケース仕様&ステッカー封入
弾き語りツアー "youth" 招待チケット応募ハガキ封入(全国12会場/応募期限あり)
1.youth
2.全て身に覚えのある痛みだろう?
3.午前2時 私は今 自画像に描かれた自画像
4.じゅうじか
5.高円寺
6.へっちゃらさ、ベイビー
7.月夜をたがやせ
8.よー、そこの若いの
9.ぼくの夢でした
10.石ころみたいにひとりぼっちで、命の底から駆け抜けるんだ
11.トム・ジョード
※チェーンオリジナル特典、インストアイベント情報は下記HPへ。
■ライブ情報
「竹原ピストル 全国弾き語りツアー"youth"」
http://www.office-augusta.com/pistol/youth.html
■関連リンク
公式サイト:http://www.office-augusta.com/pistol/
レーベルサイト:http://www.jvcmusic.co.jp/-/Artist/A018994.html
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