「宗像明将の現場批評〜Particular Sight Seeing」第22回 Have a Nice Day!『Dystopia Romance』リリースパーティー
東京のアンダーグラウンドとはどこだろう? Have a Nice Day!のリリースパーティー@LIQUIDROOMレポート
東京のアンダーグラウンドとはどこだろう? Have a Nice Day!の浅見北斗がたびたび口にする“東京のアンダーグラウンド”とは?
2015年11月18日、恵比寿LIQUIDROOMでHave a Nice Day!の『Dystopia Romance』リリース・パーティーが開催された。それに先立って、クラウドファンディング『Have a Nice Day! その華麗なるリリースとモッシュピットを生む方法』が行われてサクセスしたために、この日はどんな人でもドリンク代の500円だけで入場できた。クラウドファンディング出資者の私たちは完全無料だ。
『Dystopia Romance』リリース・パーティーは結果的に925人を動員したという。しかし、それは「ドリンク代500円だけだから」という理由だけでは説明がつかない。タダでも人が集まらないイベントもさんざん見てきた。
ただひとつ言えることは、浅見北斗が言うところの“東京のアンダーグラウンド”は、2015年11月18日をもってオーバーグラウンドへと逆転したということだ。
Have a Nice Day!は、ヴォーカル、キーボード、ソングライターの浅見北斗、ドラムのチャンシマ、キーボードのさわ、そして内藤からなる4人組のバンドだ。後述するが、ここ10カ月ほど内藤はステージに不在で、他の3人のみでライブ活動をしていた。
荒れ狂うフロアにばかり言及されて、音楽性についてあまり語られないのもHave a Nice Day!というバンドの特徴だ。彼らは小編成による最高のソウル・バンドだと私は考えてきた。Have a Nice Day!のライブの出囃子がマーヴィン・ゲイの「マーシー・マーシー・ミー」であった時期を覚えているファンもいるだろう。そして彼らの楽曲にサンプリングされているのは、ソウル、ファンク、R&Bの断片だ。
私が初めてHave a Nice Day!を見たのは、2014年9月2日の下北沢SHELTERだろう。この日の出演者は、younGSounds、せのしすたぁ、Have a Nice Day!、NATURE DANGER GANG。ただ、私が意識的にHave a Nice Day!を見るようになったのは、2015年1月におやすみホログラムとのコラボレーション曲「エメラルド」を発表してからだ。
しかし、その「エメラルド」が初披露された夜を最後に、Have a Nice Day!のステージから内藤の姿は消える。2015年5月4日には、Have a Nice Day!、おやすみホログラム、NATURE DANGER GANG、せのしすたぁによる『SCUM PARTY』という一大イベントが新宿LOFTで開催されたが、その熱狂のなかにも内藤の姿はなかった。
メンバーのひとりがどこかへ消えたままのHave a Nice Day!が、クラウドファンディング『Have a Nice Day! その華麗なるリリースとモッシュピットを生む方法』をスタートしたのは2015年9月8日のことだ。話はシンプルだった。LIQUIDROOMでフリー・パーティーをするために2カ月で100万円を集める。最低の出資額である1500円を払えば、一般流通しないサード・アルバム『Dystopia Romance』の音源がwavファイルで送られてくる、と。
「俺には浅見北斗のような文章は書けない」という敗北宣言のようなツイートとともに、私は5000円を出資した。それは、単なるクラウドファンディングの告知であるはずの「Have a Nice Day! その華麗なるリリースとモッシュピットを生む方法」というテキストに心酔したからだし、『Dystopia Romance』の世界観を補足する「テキスト版 Dystopia Romance」のデータが欲しかったからだ。要は、浅見北斗のテキストに打ち負かされたと言ってもいいだろう。
とはいえ、このクラウドファンディングは当初はまったく楽観できなかった。Have a Nice Day!のファンは、金持ちが集まっているとはとても思えなかったからだ。むしろ泥酔して踊り、暴れている奴らばかりだ。だからこそ、目標の100万円が達成されたときは不思議な感覚だった。意外とみんな昼間は真面目に仕事をしてるんだな……と。
Have a Nice Day!の『Dystopia Romance』リリース・パーティーは、クラウドファンディング開始当初から出演者がアナウンスされていた。まずNATURE DANGER GANG。Have a Nice Day!も出演していた『SHIN-JUKE』というイベントの観客が始めたバンドであるNATURE DANGER GANGは、やがて望月慎之介が主宰するオモチレコードの一員となる。Have a Nice Day!とレーベルメイトである彼らを、浅見北斗は「その愛憎も含め血を分けた兄弟みたいなもの」と綴っている。
オープニングと転換はD.J.APRILが担当し、これまでコラボレーション楽曲をリリースしてきたLimited Express (has gone?)、おやすみホログラム、Y.I.Mが出演することも当初からアナウンスされていた。後から追加されたのは『Dystopia Romance』に参加しているBOOLのみ。「ここで集まった金はオルタナって場所の公共のカネだ」と謳われたクラウドファンディングの使い道は明朗会計だ。
かくして2015年11月18日、私は受付でリターンとして『Dystopia Romance』のCDを受け取り、ドリンク代も払うことなく(結局は喉が渇いて水を買ったのだが)LIQUIDROOMのフロアへ入った。ワイシャツ姿のD.J.APRILがDJブースに立ち、Traxmanによく似た黒人男性がマイクを持っている。Traxman本人だと気づくのは、転換時に浅見北斗が「今夜はトラックスマンを前座にライブします」とツイートしたときだった。