「宗像明将の現場批評〜Particular Sight Seeing」第22回 Have a Nice Day!『Dystopia Romance』リリースパーティー
東京のアンダーグラウンドとはどこだろう? Have a Nice Day!のリリースパーティー@LIQUIDROOMレポート
MCで浅見北斗は語った。「フロアのモッシュピットとともにアルバムが完成する」と。「Are You Ready (suck my dick)」「フォーエバーヤング」というキラーチューンが演奏されると、ふだん新宿LOFTで見ているような熱狂が、LIQUIDROOMの規模へと拡張された光景を目にすることになった。
浅見北斗がMCをすると「長い!」「早くやれ!」といつも通りのガヤがファンから起きるのだが、それもLIQUIDROOMの規模になったので大変だ。それでも浅見北斗はこううそぶいた。「俺らが仕掛けた感動商法に引っかかった奴はいないよな?」「東京はとても愚かだよ」。ここで言う「感動商法」とは、Have a Nice Day!のLIQUIDROOMまでの苦悩を描いた「blood on the mosh pit」のMVのことだ。12分以上に及ぶこの映像の前半は、浅見北斗による独白であり、独特のフロウとともに語られる。
「blood on the mosh pit」は、感動商法と言うなら、たしかにベタなほどストレートな感動商法だ。しかし、私は感動商法を仕掛けた人間が、自らその感動商法に飲み込まれて、虚実が曖昧になる姿が好きだ。浅見北斗という、いかにも照れ隠しが苦手そうな男のように。
そしてMCでは「東京」という重要なキーワードも出た。『Dystopia Romance』というアルバムは、東京を舞台にした、気怠さと苛立ちとロマンティックさが交錯するコンセプト・アルバムだ。たとえば、かつてチャンシマが在籍したマリリンモンローズのカヴァー「東京都」が収録されているように。「東京都」でのHave a Nice Day!は、彼らにしては珍しいほどの儚さを感じさせる。『Dystopia Romance』の収録曲である「ASSHOLE DANCEHALL」の歌詞に出てくるマーヴィン・ゲイになぞらえれば、『Dystopia Romance』とは東京のアンダーグラウンドによるニュー・ソウルなのである。
「com'on boogie nights」では浅見北斗が音出しを間違えていた。緊張しているのだろうか? 「Zombie Party」、そして「ロックンロールの恋人」と続いたが、「ロックンロールの恋人」では浅見北斗のヴォーカルに緊張を感じた。私は好きだ。嘘をつけない人間が。
「ハートに火をつけて」、Y.I.Mとのコラボレーションを経て、浅見北斗とさわが歌う「CAMPFIRE」へ。Have a Nice Day!のミディアム・ナンバーは、メロディー・メイカーとしての浅見北斗の才能を実感させる。フロアの熱が冷めないことが何よりの証拠だ。
「blood on the mosh pit」は“感動商法”に使われた楽曲だが、この美しいミディアム・ナンバーの前ではそんなことはどうでもいい。<生きてる意味などわたしは知らなくて>という歌詞に、前日に友人の通夜に参列した私の涙腺は反応したが放っておいてくれ。この楽曲には「バビロン」という単語が出てくるし、やはり『Dystopia Romance』に収録された「巨大なパーティ」にも<たとえばこの僕がヤツらの手に落ちたとしても>という歌詞が出てくる。「敵」は具体的には誰なのか? それはHave a Nice Day!を無視するショップ、メディア、イベントのことかもしれないし、あるいはマーケットそのものかもしれない。Have a Nice Day!は「blood on the mosh pit」で歌う、<ぶち壊してよ この素晴らしき世界を>と。
Limited Express (has gone?)に続いて登場したのはおやすみホログラムで、「エメラルド」ではリフトとダイヴの嵐でフロアは地獄絵図と化した。『Dystopia Romance』にこそ収録されていないが、「エメラルド」の舞台もまた都市で、フロアの光景はさながら都市の崩壊を見ているかのようだった。