柴 那典のチャート一刀両断!
キスマイがつんく♂楽曲でチャート1位に 2位アンジュルム楽曲からハロプロの今後を読む
続くシングルに収録された「臥薪嘗胆」も、やはり高速ファンク・チューン。うねるベースラインに派手なホーン・セクション、歌の入りでメンバーの唸り声を入れるなど工夫を見せるアレンジで聴き所が多い。こちらは、こぶしファクトリーの「ドスコイ!ケンキョにダイタン」で度肝を抜くなど2015年になって数々のハロプロ楽曲を手掛けるようになりその正体が話題を呼んでいる新人作家・星部ショウのペンによるものだ。
というわけで、アンジュルムの新たな曲調の路線が定まったと思ったところに、この『出すぎた杭は打たれない/ドンデンガエシ/わたし』。驚くのは曲調の大きな変化である。王道メタルを意欲的に導入してきているのだ。「出すぎた杭は打たれない」のリズムはこれまでの16ビート基調ではなく、高速2ビート。ラウドに疾走するギターリフから始まりメロスピ(メロディック・スピード・メタル)に特有の“クサメロ”が飛び交う。派手なツインリードのギターソロもある。
「ドンデンガエシ」の方も直球のメタル・アレンジになっている。生音のドラムと打ち込みのエレクトロが共存するサウンドだ。
「出すぎた杭は打たれない」は、LoVendoЯの魚住有希が作曲。元モーニング娘。の田中れいながバンド活動を行うにあたって4000名の中から選抜されたギタリストだ。一方「ドンデンガエシ」は、テレビ朝日系番組『musicるTV』の企画「ミリオン連発音楽作家塾」に第三期生として参加し、℃-uteへの楽曲提供で最終選考まで残った新人作家・宇宙慧が作曲を手掛けている。
こうして、様々な方面から新しい才能をフックアップし、曲調も固定せず「ポストつんく♂」体制を確立するための実験場のようになっているのが、今のアンジュルムと言えるのではないだろうか。
なお、前回のチャート分析記事(http://realsound.jp/2015/10/post-5048.html)でも触れたとおり、今週の1位となったKis-My-Ft2のニューシングル『最後もやっぱり君』は、つんく♂が作曲を手掛けたナンバーである。ランキング状況からは、親離れをして新たなアイデンティティを作り上げようとしているアンジュルムの前に作家としてのつんく♂がジャニーズと手を組み巨大な壁として立ちふさがっているような構図が読み取れる。
なかなか興味深い状況だ。
■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」/Twitter