西寺郷太×和田 唱が語る、80年代のポール・マッカートニー「天才で多作で、たまにしょうもない曲もある(笑)」

西寺郷太と和田唱が語る“ポールのすごさ”

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「マイケルがポールから学んだことは多々あると思う」(西寺)

──ポールは、ジョン・レノンというもうひとりの天才ソングライターがいるバンドで育ったこともあって、何かしら刺激をくれる人がいないと脆くなるところもあったんでしょうね。

西寺:ポールのいいところは、それもひっくるめてなんですよね。天才で多作で、たまにしょうもない曲もあるけど(笑)、それすらも楽しいっていうか、トータルのキャリアで楽しませてくれる。『Tug Of War』でジョージ・マーティンを呼んだのも、「何かあったら注意してほしい」というか、コントロールしてほしい部分はあったんじゃないかな。スティーヴィーもポール同様に天才で、ポールにとって「自分を凌駕する能力を持つアーティストはスティーヴィーしかいない」と思っていたんじゃないかな。両者共に鍵盤やドラムを自在に操るマルチ・インストゥルメンタリストだし。マイケルがポールと共演したとき、少なくともレコーディング時点ではポールよりも格下だったかもしれないけど、数年後に開花する「ポールを凌駕する、匹敵する別の能力」を彼は持ってたわけでしょ。ポールってそういう才能の芽を見る目も持っているよね。逆にマイケルがポールから学んだことは多々あると思うな。

和田:当時のポールから見たマイケルの評価っていうのは、『Off The Wall』のマイケル・ジャクソンだよね。

西寺:『Off The Wall』もたいして聴いてなかったと思うなあ。ポールが書いた「Girlfriend」は収録されてるけどね。

和田:あれはポールが「君のために作ってあげたよ」って曲で、確実にジャクソン5のマイケルをイメージして作ってるよね。「Say Say Say」を録音したのは、『Triumph』ツアー(ジャクソンズの81年ツアー)の頃だっけ?

西寺:そうだね。80年の3月に弟のランディーが交通事故で大ケガをして、『Triumph』のツアーがすぐにはできなくなって。80年から81年っていうのは、マイケルにとって後にも先にもないぐらい暇になっちゃったときなんだよね。

和田:そのタイミングだったんだ。

西寺:クインシーと次のアルバムに取りかかりたかったんだけど、その頃クインシーは、ジョージ・ベンソンやドナ・サマー、自分のソロも作ったりで多忙を極めてた。それで、ポールに「曲を作らせてください」って言って。

Paul McCartney and Michael Jackson 'Say Say Say [2015 Remix]'

和田:「Say Say Say」のビデオを録ったのは……83年でしょ? マイケルぜんぜん顔が違うよね、ポールとレコーディングした頃と。「Say Say Say」が発表されたときはもう、物販を着ないマイケル、顔がスターに変貌してるもんね。

西寺:しかもそれって、整形による変化だけじゃないよね。王者になった人ゆえの冷徹さというか。思い浮かぶのは入団当時は素朴だったイチロー選手が首位打者獲りまくったあと、今に至るキリッとした顔になった瞬間。「もういい顔ばかりしていられないっ」という自覚からくる凛々しさ、彫刻みたいな温度感のない顔。

和田:ホントそうだね。

西寺:でもさ、ポールからしたら「なんやねん!」っていう話だと思うよ。「曲、作らせてください!」って言ってきてさ、プレゼントした物販を着こなす、そんな可愛らしいマイケルがポールは好きだったと思うんだけど、ビデオ録る頃は顔つきも違うし髪型も違うし、服装も違うし、まるで物販なんて着そうもないし(笑)。

和田:『Thriller』出したばっかりの頃は、まだ『Off The Wall』の面影が残ってるんだけどねえ。

西寺:ポールと歌った「The Girl Is Mine」が『Thriller』の先行シングルになって、あれをレコーディングしたのが82年の4月の前半。『Thriller』に入ってる曲でも最初期に作ったものなんだけど、全体的に牧歌的っていうかね。で、一番最後にできたのが「Beat It」。アルバムのレコーディングは11月まで続いたんだけど、その間のモードの変化っていうのも結構すごい。「Beat It」はエディ・ヴァン・ヘイレンにギター弾かせてるわけだし。

和田:ブラック寄りな「Say Say Say」がポールのアルバムに入ってて、白人的な「The Girl Is Mine」がマイケルのアルバムに入ってるっていうバランスも面白いよね。

西寺:マイケルがポールのエッセンスを吸収した結果だろうね。ジョージ・マーティンもいたけど、80年代初頭にポールと交わったことが、のちのブラック・ミュージック全体の流れも変えたことにも繋がる。結果、世界でもっとも売れたアルバムにポールの声も入ってるわけだから。そういう意味で、80年代に『Tug Of War』と『Pipes Of Peace』、それに『Thriller』もひっくるめて巨大なムーヴメントに関わってたっていうことを考えると、ホントにポールってすごいなって思うんだよね。

和田:まさに。その通りだね。

(取材・文=久保田泰平 撮影=有高唯之)

■リリース情報
『Tug Of War – Super Deluxe Edition』
価格:18,360円(税込)

『Tug Of War - Deluxe Edition』
価格:3,996円(税込)

『Pipes Of Peace - Super Deluxe Edition』
価格:16,200円(税込)

『Pipes Of Peace - Deluxe Edition』
価格:3,996円(税込)

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