ギター1本で世界92カ国を回った男ーーシンガーソングライター・迫水秀樹が見た風景
迫水秀樹というアーティストを語る上で欠かせないのは詞だ。生々しいメッセージを訴えかけるわけでもなく、甘いラブソングを歌うわけでもない。どこか童謡的であり、おとぎ話、絵本をのぞいているような不思議な感覚に見舞われる。バンド時代からアートワークにも徹底的にこだわってきた世界観でもあり、彼の作家性でもある。そして、彼が歌うのはもちろん日本語である。
「英語の曲もありますけど、ほとんど日本語ですね。日本語で歌うほうが、面白がってくれるんですよ。『おまえ、なんて歌ってるんだ?』と歌詞の意味を訊いてくる人もいて、コミュニケーションが取れたりしますし。『日本から来ました、世界一周するのが夢です』というプラカードを置いて歌っているので、珍しがられたり」
近年、海外人気のある日本のアーティストは日本語で歌わないとウケないという風潮もある。その昔、日本人が洋楽に憧れ、英語で歌うことに憧れたように、現在、海外では“J-POP”に憧れ、“Japanese”に憧れる、そんなことも珍しくない。
「バンド時代、2009年に米ワシントンD.C.で行われる<Sakura Maturi>(全米桜祭り“National Cherry Blossom Festival”の一環として行われるストリートフェスティバル)に出演させていただきました。そこで日本語曲を歌ったんですけど、『海外でも自分の国の言語で歌ってもいいんだ』ということを実感したんです。反応もよく、CDもたくさん売れて、言語の壁を越えた何かを感じた瞬間でした。アメリカの友人に『ヒデキはラッキーだ。日本語は水が流れるように聴こえる。中国語で歌ったら“angry”に聴こえてしまうだろ?』と言われたことがあるんです。それが海外から見た、“日本人らしいメロディー”なのかなと思います」
初めて訪れる見知らぬ街での路上ライブだけで生活していく。それは、なんの保証もない“その日暮らし”でもある。思うように稼げなかったことはなかったのだろうか。
「大都市だと、規制や街行く人々の足取りも早かったり、田舎町より厳しさを感じたことはあります。でも、とくに贅沢な旅をしているわけでもないですから。路上で歌って稼げなかった国は、インドですね。人は集まるんですけど、お金をあげる文化がないので。そういうときはカフェやレストランで観光客相手に歌わせてもらったり。僕が見てきた中では、路上ライブの文化がない国ってないんですよ、インドと日本くらい。もちろん、日本でも路上ライブをやる人はいますけど、それだけで稼いで日本一周出来るか?といったら、実際難しいと思いますし」