村尾泰郎の新譜キュレーション 第2回
Alfred Beach Sandal、柴田聡子、デラドゥーリアン…… ユニークな個性が光るSSWの新譜5選
洋邦問わず新作を紹介させて頂くこのコーナー。今回は「オルタナティヴな歌心を持ったシンガー・ソングライター」という切り口で、8月から9月までの新作から選んでみた。私小説的な歌詞をフォーキーなサウンドで紡ぎ出す、そんな伝統的なシンガー・ソングライターのスタイルから踏み出して、実験的だったり、ひねくれていたり、歌詞やサウンドにユニークな個性が光る奇才たち。まず最初は、北里彰久のフリー・フォームなソロ・ユニット、Alfred Beach Sandal『Unknown Moments』から。
デビュー時は、北里の弾き語りにスティールパンやハードコア・パンクが乱入するようなカオティックなサウンドだったが、今回は前作『Dead Montano』にゲスト参加した光永渉(ドラム)と岩見継吾(ベース)が続投して、バンド・サウンドにフォーカス。とりわけ、シングル・リリースされた「Honeymoon」をはじめヘヴィで切れ味鋭いグルーヴに磨きがかかっていて、ラッパーの5lackとのコラボ曲など新境地を切り開いている。とはいえ曲の核になっているのは、ネジれながらも美しいメロディーと不穏な空気感を漂わせた歌声だ。弾き語りの曲もこれまで以上に強度を増していて、メロディーやビートにぴたりと寄り添うシュールでダークな歌詞にも注目。夕暮れ時に見知らぬ街に迷い込み、どんどん家が遠くなっていくけど見知らぬ風景に心奪われる……そんな不気味な叙情を漂わせたアルバムだ。
柴田聡子の歌は少女のようにあどけないけれど、そこには油断ならない闇がある。新作『柴田聡子』は彼女がリスペクトする山本精一をプロデューサーに招いて、初めてバンド・セットでレコーディングされた。山本をはじめ、須藤俊明、一楽誉志幸、西滝太などゲスト・ミュージシャンたちによるバンド・サウンドは、タイトな脱力感というか絶妙のバランスで柴田の歌をフォロー。そんな腕利きのバンドに支えられ、柴田はこれまでになくポップな曲を正面切ってやっているが、やればやるほど違和感が、毒がじわじわ滲み出る。その“ポップな毒”が本作の魅力。聴く者を当惑させながら、その世界に引き込んでいく歌詞の面白さも相変わらずで、柴田はアシッド・フォーク的な不穏さを漂わせがらも飄々とした歌いっぷり。借り物のセンスやワザに頼らず、大胆に歌に向き合っている勝負師的風情は山本に通じるところがあって、3枚目のアルバムにして早くも風格を感じさせる。