『30周年記念盤 スーパーマリオブラザーズ ミュージック』特別対談Part.2

任天堂・近藤浩治氏×サカナクション・岩寺基晴が語る、ゲーム音楽の歴史と未来

「バンド内で使う共通言語は『スターを取った感』」(岩寺)

 

──サカナクションの「夜の踊り子」のあるパートは、スーパーマリオでマリオがスターを取ったときをイメージした音だと聞いたことがあるんですが?

岩寺:そうですね(笑)。音的なということではなくて、イメージとして……スターを取った瞬間って、そこで世界もテンポ感も変わってガーッと疾走していくような、すごく爽快なイメージがあったんです。で、サビに入ったときに本当にスーパーアイテムを取ったときのような疾走感を表現できたらということで、「スターを取った感」とよく言ってました。今でもバンド内で使う共通言語なんです。

──共通言語になるということは、本当にみんながマリオを通ってるってことですもんね。

岩寺:すごいですよ、僕ら世代は完全にみんな通ってますから。

近藤:「ここからスターを取った感じで」って、みんな演奏が変わるわけですね(笑)。

岩寺:「スターを取ったときのシンセの音って、こんな感じだよな」とか(笑)。

近藤:面白いですね(笑)。

岩寺:そうだ、『スーパーマリオブラザーズ』の音楽も今回改めて聴き直してみたんですけど、一番有名な地上面の音楽ってあるじゃないですか。あのメロディってリズム的には跳ねてないのに、その裏に入ってるドラムセクションはすごく跳ねていて、その掛け合いで絶妙なグルーヴ感が生まれているのがすごく面白くて、ジャズを聴いてるような印象でした。そういうことは意識していたんですか?

近藤:実はあの地上の曲を作る前にボツになった曲がありまして。最初はちょっとのほほんとしていて、スイングする能天気な曲だったんですけど、それに合わせてマリオを操作したら全然曲が合ってない。そこでちゃんとマリオが走るテンポ感とかジャンプするのに自分がボタンを押すタイミングとか、リズムに合わせなくちゃいけないってことで、今のような曲調になったんです。で、そのボツになった曲のスイングの「チッチチッチチッチ」っていうノイズだけは残して使ってるんですよ(笑)。

岩寺:ああ、なるほど! そういうことだったんですね。

近藤:そういう、自分では意図しないバグとか打ち込みミスとかで新しいフレーズが生まれたり、面白い曲ができたりするっていうのは多々ありましたね。あと、何年も経ってから分析したんですけど、「タタタタッタ」っていうのが歩いてる雰囲気で、「トットトッ」でジャンプしてるのかなと。こじつけですけどね(笑)。でもそういうのは無意識で生まれてきたものなんです。

岩寺:地上の曲のメインフレーズは曲の途中、折り返しでも出てくるじゃないですか。で、その後展開していくんですけど、その前に入るコード感を聴いてると、同じことを繰り返してるのに違うコード進行のような印象を受けて、そこがすごく面白くて。それがあるからずっとループされていても飽きずに聴けるのかなと思いました。僕らはクラブミュージックの要素を取り入れていて、ループする中で微妙な変化を感じ取るような音楽をやっているんですけど、ゲーム音楽でのループに対する考え方って何か決め事みたいなものはあるんですか?

近藤:普通のポピュラー音楽だったらサビで盛り上がったり、そこまでに持っていくまでに起伏があったりするんですけど、ゲームの場合はゲームをプレイする人によって盛り上がりのポイントはバラバラ。いつどのタイミングにピークが来るかわからないので、音楽はずっと一定に、どこを切っても金太郎飴みたいに同じ調子でありながら、飽きの来ないように変化すると言ったところがゲーム音楽の特徴なのかなという気がしますね。

 

岩寺:確かに。1作目のスーパーマリオだと、地下の音楽もすごく好きで。あれは三拍子なんですか? 実はマリオ3だと同じメロディにリズムが加わっていて四拍子なんですけど、マリオ1は三拍子なんですよね。

近藤:(指でリズムを刻みながら)うん、そうかな。

岩寺:それに気付いたときに、同じメロディなのに三拍子と四拍子どっちでも成立しているのがすごく面白いなと思って。凝ってますよね。

近藤:あれは不安感を出すために、リズムを数えにくいようにしたいなというのはありましたね。

岩寺:なるほど。よく聴かないと、どういう休符が入っているのかわかりづらいし。

近藤:3音使えるのに、地下の音楽は1音だけで。3音全部使いたいと思うんですけど、地下の暗い雰囲気を出すためにベースソロみたいなメロディにして。フレーズは1音ですけども、音色としては2つ使ってるんですよ、方形波と三角波。

岩寺:同じ音符で?

近藤:そう、ユニゾンで鳴らして、ちょっと違った雰囲気にしたんです。

岩寺:そういう使い方もできるんですね。歴史が進んでスーパーファミコンになると、音の制約がなくなってくるわけですか?

近藤:いえ、そんなことないですよ。スーパーファミコンもファミコンと比べたら8音に増えていろいろ使えるなとうれしかった記憶があるんですけど、1音だけ出すと薄っぺらい音色になってしまう。それをいかに太い音にするかで苦労しましたね。

岩寺:音源的にはスーパーファミコンになると何が変わったんですか?

近藤:音源はウェーブテーブル音源っていう、メモリの一定量の波形をずっとループするみたいな。これがいろいろ変えられるんです。それにアタックのPCM音源が加えられるっていう感じです。その後にメモリがどんどん増えてより楽器らしい音色が使えるようになっていきました。

──スーパーファミコンの前にはゲームボーイも登場しましたが、ゲームボーイは容量的な部分含め、ファミコンとどう違っていたんですか?

近藤:ゲームボーイの方がファミコンよりも少なかったですね。ゲームボーイは三角波の代わりにまた違う音色だったんですけど。

岩寺:ゲームボーイの音を最近ちゃんとしたスピーカーで聴いたことがあったんですけど、低音がすごく鳴るんですよ。今でもあの低音感は使えるなと思いました。

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