ブルックリン・シカゴからアフリカ・アジアへーー岡村詩野がUSインディーのルーツを探る

20150906-okamura.jpg
Mdou Moctar『Akounak Tedalat Taha Tazoughai (Original Soundtrack)』

 また、アメリカにはアフリカ、東南~西アジアの音楽に傾倒するレーベルも点在しており、中ではサン・シティ・ガールズのアラン・ビショップを中心に設立されたシアトルのサブライム・フリークェンシーが日本でも知られているが、オレゴンはポートランドに09年に誕生したサヘル・サウンズもアフリカの様々なアーティストを紹介する注目のレーベル。わけても、ニジェールで活動するアーティスト、Mdou Moctarの作品には力を入れており、現地トゥアレグ族の伝統的な揺らぎあるギター奏法を取り入れたサイケデリックな楽曲はジワジワと世界中に広がりつつある。この『Akounak Tedalat Taha Tazoughai (Original Soundtrack)』は何とあのプリンスの『パープル・レイン』をリメイクした映画のサントラ。サヘル・サウンズのオーナーであるクリストファー・カークリーが製作したというそのリメイク映画自体残念ながら未見だが、サハラ砂漠を舞台にMdou自身が主役を演じているというからなかなか興味深い。このサントラもカヴァーではなく全てオリジナル曲。ファンクでもソウルでもなく、これまでのMdouの作品同様、サイケなギター・サウンドと呪術的なヴォーカルとが織りなす、トリップ感と高揚感とを行き来するような曲が11曲収録されている。こうした作品もまた、アメリカ経由でアフリカの音楽が咀嚼された一つの好例とカウントしていいだろう。

20150906-okamura4.jpeg
チャールズ・ジョセフ・ナングンド『homenagem』

 最後は、こうしたアフリカン・ミュージックに傾倒するアメリカの精鋭たちにとってはまだまだ未開地であるだろう、アフリカ大陸南東部に位置するモザンビークから現在来日中のマコンデ族の若手ミュージシャン、ナジャの叔父であり、長きに渡って活動を続けてきたチャールズ・ジョセフ・ナングンドの『homenagem』(自主制作。初CD化)。モザンビークはポルトガルを軸とする白人相手に、75年、見事独立を勝ち取った国だが、わけてもマコンデ族はその独立戦争の立役者となった民族で、その血を引くナングンドはまだ支配下の時代から反政府運動と連携して音楽活動をしていたという。しかしながら、その音楽自体はとても軽やかで洒脱なもので、歌詞は支配へ抵抗する気持ちを伝える重いものが多いが、躍動的なギターで極めて生き生きと歌われているのが特徴だ。残念ながらナングンド自身は06年に交通事故で亡くなったそうだが、今は甥であるナジャが遺志を受け継ぎ、マコンデ族の悲しい歴史を踏まえながら、それでも軽やかで洗練された音楽を聴かせている。先頃、筆者が見た京都での公演(京大西部講堂)では、現役京大生バンドである本日休演がフロントアクトを担当。グナワの要素を取り入れ、現地のパーカッションのカルカベを用いた演奏を展開した本日休演もまた、ブルックリンやシカゴ勢同様、ポップ・ミュージックの枠組みの中で、日本からアフリカや東南~西アジアの音楽へと歩み寄っているネクスト・ジェネレーションの一バンドと言えるだろう。

■岡村詩野
音楽評論家。『ミュージック・マガジン』『朝日新聞』『VOGUE NIPPON』などで執筆中。東京と京都で『音楽ライター講座』の講師を担当している(東京は『オトトイの学校』にて。京都は手弁当で開催中)ほか、京都精華大学にて非常勤講師、α-STATION(FM京都)『Imaginary Line』(毎週日曜日21時~)のパーソナリティも担当している。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「連載」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる