金子厚武のプレイヤー分析

the HIATUSや木村カエラのバンドでも活躍 toe柏倉隆史のドラムスタイルを新作から読み解く

 フルアルバムとしては実に5年半ぶりとなる新作『HEAR YOU』をついに発表したtoe。木村カエラ、Chara、U-zhaan、5lackといった豪華ゲストの参加も話題だが、今回はドラマー・柏倉隆史のプレイに改めて注目してみたい。

 同時期にmouse on the keysやte’の新作が発表されることもあって、現在ポストロックにリバイバルの気運が感じられるが、このジャンルはドラマーに注目が集まることの多いジャンルだ。トータスのジョン・マッケンタイアを筆頭に、バトルスのジョン・ステニアー、マイス・パレードのアダム・ピアース、toeとも親交の深いペレ~コレクションズ・オブ・コロニーズ・オブ・ビーズのジョン・ミューラー、そしてdowny/fresh!の秋山タカヒコやmouse on the keysの川崎昭……。しかし、日本においてこの界隈を代表するドラマーと言えば、やはり真っ先に名前が挙がるのは柏倉だろう。the HIATUSや木村カエラのバンドでも活躍する彼の存在は、とっくにポストロックという枠組みを超え、唯一無二のポジションを確立している。

 少しだけ振り返ってみると、そもそも柏倉のプレイはtoe以前に所属していたDAMAGEやREACHといったハードコアパンク色の強いバンドを起点としていて、手数の多い派手なスタイルがベーシックにあった。toeの初期作はそんな彼のドラムを中心としたドラマチックかつエモーショナルな展開が持ち味だったし、それはthe HIATUSや木村カエラの作品にオルタナ色を加える意味でも大きな要素となっていた。最近だと黒木渚のシングル『君が私をダメにする』において、フリージャズ畑を代表するピアニストのスガダイローとカオティックな共演を果たしていたのが印象深い。

 しかし、toeにおいては2009年に発表した『For Long Tomorrow』からループを主体としたヒップホップ~ネオソウル的な作風へと移行したこともあって、柏倉のドラムもより抑制の効いたものへと変化。『HEAR YOU』においてもこの路線を踏襲しつつ、より奥深く、多彩な表情を見せている。

関連記事