感傷ベクトルが予感させる、「音楽と物語の融合」の新たなフェーズ さやわかが2枚組ベストを読み解く
感傷ベクトルが、7月1日に同人&ワークベストアルバム『one+works』をリリースした。感傷ベクトルは、別冊少年マガジンで連載中の漫画『フジキュー!!! 〜Fuji Cue’s Music』を連載するなどプロの漫画家でもある田口囁一と小説家・春川三咲を中心としたロックバンド。同作は、田口囁一が立ち上げた同人サークルで発表した作品のベストアルバムと、提供楽曲・歌唱参加楽曲を収めた作品である。ロックバンドであり、漫画家・小説家である彼らの作品は「物語と音楽の融合」とも評されるが、評論家のさやわか氏は、感傷ベクトルがそうした方法論をさらに先に進めていると分析する。(編集部)
感傷ベクトルは、田口囁一と春川三咲から成る2人組のユニット。バンドとしては、田口がボーカル、ギターその他の楽器そして作詞を担当しており、春川はベースということになる。しかし彼らはもともと同人誌でバンド漫画を描き、その作中に登場する音楽を音源化するような活動をしていた。また近年にも、やはりバンドをテーマにした漫画作品「シアロア」をウェブ連載し、更新のたびに1曲ずつ同作と連動した楽曲を公開していた。この漫画連載は後に単行本としてまとめられたし、楽曲もCDアルバム化されている。そしてそもそも田口は感傷ベクトルの活動とは切り離された場所においてすら漫画家として作品を送り出し続けており、また春川もしばしば脚本家としてクレジットされている。
こうした活動はたとえばメディアミックス的だと言われたり、あるいはニコニコ動画やボーカロイドなどを楽しむ若手に見られがちな「物語と音楽の融合」の一種であると言われたりもする。それは間違いではないだろう。しかし、そういうキーワードだけでまとめてしまうと、そもそも彼らがなぜこんなことをやっているかということは見過ごされがちになる。どうかすると、要するにこうした作品を作る者たちはメディアをまたがって商売の幅を広げたいのだと揶揄するように語られたりもする。