感傷ベクトルが予感させる、「音楽と物語の融合」の新たなフェーズ  さやわかが2枚組ベストを読み解く

 彼らがやっていることを、メディア同士の分断された姿でしか把握できなければ、結局そうした言葉が出てきてしまう。しかし、もちろんそうではない。考え方を変えるべきだろう。彼らがやっていることとは、むしろ単に物語そのものなのではないか。90年代に多くのバンドが求められてきたのは、アーティストの内面を描くことだった。それはそれである物語の型に沿ったものではあったが、2000年以降になってBUMP OF CHICKENなどが台頭して、いま彼らがやったこととして振り返ることができるのは、アーティスト自身の考えが投影されているとしても、それとは別個の世界観や登場人物から成る物語に基づく歌だった。2000年代後半に登場した「物語と音楽の融合」あるいはメディア越境的に振る舞うミュージシャンたちは、この路線をさらに深めた者たちなのだろう。

 だから感傷ベクトルにとって、音楽を作ることと漫画を描くこと、あるいは物語を書くこととは、彼らが描きたい感情や思想がまず情景として表れるもので、さらに言えばそれは映像的にイメージできるようなシーンや台詞から成り立っている。それがアウトプットされる先がどのメディアになるかという違いはあれど、彼らの表現がまずは物語そのものなのだというのはそういう意味だ。

 しかし感傷ベクトルは製作ユニットというだけでなく、あくまでもバンドとして、場合によってはライブを行うことも考慮に入れたグループとして存在している。これも若手のクリエイターにとってはどちらかといえば自然なことで、彼らは物語として作られたものを積極的に身体を通して演じようとする。彼らの少し前の世代なら、物語性を重視する音楽ユニットはパッケージとして、あるいはプッシュ型のメディアに乗せて作品を送り出すことにこだわり、作り手の身体を現さないことも多かったのだが、いまその垣根は次第に破られつつある。それはルーズな出来事ではなく、物語を中心としてメディアが横断されていった結果、ついには身体を使った表現もそのバリエーションに加えられていくということなのではないかと僕は思う。

 感傷ベクトルは7月1日に同人時代のトラックとコラボ楽曲を集めた2枚組のアルバム『one+works』をリリースしたが、まあこれは実質的にベスト盤的なものだと言っていいだろう。これはつまりそれぞれの楽曲が本来なら持たされていた物語から引き離されて、ひとまとめにされたということになる。そういうやり方もまた、物語を頑なにひとつのスタイルで送り出すことからの解放のように思える。つまり「物語と音楽の融合」は、単純にメディアミックスという言葉で片付けられるような段階を終え、新たなフェーズに入っている。それは音楽というものの、あるいは物語というものの位置づけの時代的な変化を感じさせるもので、感傷ベクトルの活動には端的にそれが顕れている。

(文=さやわか)

■リリース情報
『one+works』
発売:2015年7月1日(水)
価格:¥3,300(税抜)
CD2枚組・全31曲

※初回生産分のみ、2015年8月7日ワンマンライブ特別先行予約(締め切り7月12日)

<DISC1> Dojin Best Album『one』

01 forgive my blue
02 Hide & Seek
03 表現と生活
04 孤独な守人
05 冬の魔女の消息
06 人魚姫
07 退屈の群像
08 深海と空の駅
09 blue
10 Tag in myself
11 ノエマ
12 none

<DISC2> Works Best Album『works』

01 Kaleidoscope
02 残り香
03 夏の幽霊
04 レッドノーズ・レッドテイル
05 お宝発掘ジャンクガーデン
06 あやとり
07 フラワードロップ feat. IA
08 死神の子供達
09 フォノトグラフの森
10 ib-インスタントバレット- (full ver.)
11 ルナマウンテンを超えて
12 かつて小さかった手のひら
13 Call Me
14 I.C
15 地獄の深道
16 ルナクライシス
17 ラストシーン
18 sayona ra note
19 チルドレンレコード

■ライブ情報
「感傷ベクトル リリース記念ワンマンライブ "one+works"」
8月7日(金) 渋谷WWW

http://www.sen-vec.com/

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