『Blue Blood』インタビュー
w-inds.が語る、J-POPの新標準 「“失敗する”というイメージがまったく沸かなかった」
『週刊文春』(文藝春秋)にて好評連載中の近田春夫氏による連載「考えるヒット」において、「音楽家として信用していいのだと、改めて納得した次第である」と氏を唸らせた楽曲は、w-inds.34枚目のシングル「FANTASY」だった。橘慶太・千葉涼平・緒方龍一のトリオで華々しくデビューを飾り、今年で活動15年目を迎えた彼らは、いつから“信頼出来る”音楽家へと成長したのか――。
世間一般が抱くw-inds.へのイメージは<3人組のアイドル・グループ>かもしれないし、<レコード会社がお膳立てしてくれたポップスを歌わされてるアイドル・グループ>しれない。しかし、デビュー10周年を迎える前後だろうか、「僕らも大人になり、制作スタッフも入れ替わったタイミングで、しっかりと楽曲のクリエイティブ・コントロールを握れるようになった」と、ボーカルの橘慶太は以前のインタビューで語っている。「10年かけてようやくか」とあざ笑う人間がいたとしても、今のw-inds.の3人にとってみれば、どこ吹く風だ。
2012年にリリースした9作目のアルバム『MOVE LIKE THIS』では、ポップスというフィールドでいち早くEDMを前面に押し出した作品を作り上げ、前作『Timeless』(2014年)ではタイトルの如く、普遍的で色褪せない楽曲の制作に挑んだ。そして“高貴な血筋”を意味する新作『Blue Blood』でw-inds.が目指したものとは、一体なんだったのか。
「僕らと同じような境遇で戦う相手がいれば、刺激にもつながって楽しい」(慶太)
――デビュー15年目を迎えましたが、メンバーで楽曲の主導権を握るようになってからは、どのような変化が起きていますか?
橘 慶太(以下、慶太):楽曲もライブ・パフォーマンスも、常に変化と共に成長できていると思います。デビュー当時と比較したら、音楽そのものに対する考え方、モチベーションもまったく異なりますね。15~16歳でデビューして右も左もわからず、与えられた楽曲を精一杯表現するのがやっとでしたから。それが今は3人の想いがそれぞれ形となり、曲として完成する。決して過去の曲が嫌いという意味ではないけど、やっぱりこの数年で作ってきた曲は、まるで自分の子どもかのように愛着が沸くんですよね。
緒方龍一(以下、龍一):特に決めているわけではないんですけど、制作においてメンバー各々の役割分担ができているのも変化のひとつですね。みんなが違う部分で目を光らせているので、曲そのものを歪ませず、不足している部分を補いつつ、それが結果的に全体のクオリティを底上げしている。みんな同じ箇所に目を向けていたら、きっとどこかでつまずいちゃうだろうし。
千葉涼平(以下、涼平):こだわりと柔軟のバランスがうまく保てているんだと思います。それがあるから無駄な衝突も少ないし……もしかしたら今後はバシバシぶつかり合うかもしれませんけどね。
龍一:言葉にはしないけど、3人がそれぞれ絶大な信頼を置けている。15年も同じグループを続けているから当然のことかもしれないけど、今でも慶太や涼平くんには驚かされることは多々ありますからね。まあ、ふたりが真面目で、僕ひとりが楽観的な性格だからかもしれませんけど(笑)。
――そんな変化と共に成長し、「高貴な血筋」という意味を冠にした『Blue Blood』ですが、このタイトルは制作前から決めていた言葉ですか?
慶太:制作の途中でひらめいた言葉です。w-inds.のカラーが青色ということもあり、<Blue>という言葉はタイトルに入れたくって。それでアルバムの楽曲が出来上がってきて、何度か聴いたり、新しいアルバムはw-inds.にとってどんな位置付けの作品になるのかな、と考えたときに、ふと“Blue Blood”という言葉が浮かんだんです。
――ほかのタイトルは浮かばなかった?
慶太:まったく思い浮かばないくらい、今作にしっくりくる言葉だな、って感じたんです。僕のルールで、ひらめいたアイディアは“一晩寝かせる”んですが、翌日起きても「これは絶対にいい!」と思えた言葉だったので(笑)。
――今年初旬に『週刊文春』に掲載された近田春夫さんの「考えるヒット」にてw-inds.の「FANTASY」が取り上げられていましたが、近田さんの見解はどう受け止めましたか? また、近田さんの見解は、今作を作る上で、なんらかの影響を与えたのでしょうか?
慶太:掲載の話を聞いて、すぐ読んだんですけど……とにかく“見透かされている!”と感じました(笑)。いや、すごくありがたい意味でですよ。僕らが「FANTASY」で提示したかった裏メッセージにも気づいてもらえていたし、近田さんのような第三者の方が世間に伝えてくれることを、僕らは少なからず望んでいたんです。
龍一:僕らが説明してしまったら、リスナーに「そのように聞いてください」という押しつけになってしまう。伝える側のエゴは抑えて、聴き手にはいつでも余白を与えないといけないと思いますからね。それにしても……近田さんの原稿は、とても切れ味が鋭かったです(笑)。
慶太:近田さんが原稿で書かれていた通り、「FANTASY」はJ-POPへの挑戦状でもあって、たとえ食わず嫌いで僕らの曲を耳にしない人がいたとしても、どこかで耳に入った瞬間、「……あれ、なんかかっこいい曲だな」って空気を変えたい気持ちがあったのも事実で。
――“J-POPへの挑戦”という気持ちは、『MOVE LIKE THIS』リリース時から掲げていたひとつのテーマだと思いますが、正直、w-inds.と似た境遇であってもなくても、いま純粋に戦って張り合いのあるアーティストって、実はいないと感じていたりは?
慶太:正直、いないと言えば、いない。同じような境遇で戦う相手がいれば、きっとそれは刺激にもつながって楽しいと思うし、日本音楽の“標準”と言われるクオリティを上げることにもつながる。でも、それが悪いとは感じていませんし、逆に相手がいないのであれば、突き抜けるだけ突き抜けてやろう! という気持ちに拍車がかかっている状況です。
――そうした確固たる意思が、前作『Timeless』を超える自信につながった?
慶太:『Blue Blood』が完成した時点で、「前作を超えたな」という自信があったんです。根拠は……ないんですけど(笑)、ひとつ言えるのは、“失敗する”というイメージがまったく沸かなかったこと。制作を進めている段階でも、そこには成功という感覚しかなかった。かといって、その成功する感覚の根拠は? と言われると説明するのが難しいんですけどね。
龍一:余計な心配がまったくなかった。慶太がそんな風に感じていた自信は僕もあったし、それは涼平くんも一緒だったと思う。
涼平:そうだね。心配もなければ、迷うこともなかった。潔い作品ができたな、って。