ミオヤマザキ、感覚ピエロ、R指定……ネガティブな歌詞表現を昇華するバンドたち

 「歌が勇気をくれた、共感した、価値観や人生観が変わった」といった言葉が聞かれるように、音楽は生きるうえで絶対に必要なものではないかもしれないが、人の心を動かす力がある。心に響く歌、現実を忘れさせてくれる歌、背中を押してくれる歌……そうした歌に突き動かされることも多いだろう。だが、実際に落ち込んだときには、優しさや励ましの言葉をかけられるよりも、同じ悩みを抱えているのは自分だけではないということを知ることで、妙な安堵感を得られることがある。苦悩、葛藤、不安、劣等感といった“負の感情”を、詞(ことば)に、音楽に、サウンドに、昇華していくバンドは、決して万人受けするとはいえないが、悩みを抱えたひとには深く訴えるものがあるのではないか。必要とする人は必要とするだろうし、要らない人にはずっと要らないまま、そんな存在の音楽を紹介したい。

悶々とした気持ちを言葉にするネガティブ系ロック

 Coccoは〈太陽まぶしかった 泣くことさえできなくて 雨ならきっと泣けてた〉と歌い、syrup16gは〈したいことも無くて する気もないなら 無理して生きてる事も無い〉と叫んだ。悶々とした感情を綴る歌は、90年代に台頭したオルタナティブ・ロック〜ラウド・ロックの影響もあり、メジャー感とは一線を画すサウンドとの親和性とともに、いつしかロックシーンの一端を担っていった。そして数々のネガティブな、しかし優れた表現が紡がれる。

Lyu:Lyu

Lyu:Lyu "メシア" (Official Music Video / Directors cut ver.)

 死にたくなるくらいつらい、でも死ぬのは怖い。明日に怯え、未来に絶望する。そんなやり場のない焦燥感を赤裸々に歌うのが、Lyu:Lyuだ。野太い声ながらどこか切なさを感じるコヤマヒデカズのボーカル。絶望的な言葉を力強く歌う声が心に深く突き刺さる。彼らの演奏は、すべてを吐き出すことによってこそ、見いだせるものがあるのかもしれないと思わせてくれるのだ。3ピースならでは荒々しさと、絶妙に作り込まれたバンドアンサンブルが同居した、高い完成度の楽曲が魅力的なバンドだ。

Lyu:Lyu “ディストーテッド・アガペー”(Official Music Video)

シニカルな音楽ビジネス風刺

 反体制的な思想は、ロックのスタイルとして古くから確立されている。そうした態度は、社会や政治に対してはもちろん、固定観念の多い音楽ビジネスや市場に対しても示されてきた。斬新かつ自由な発想で、既存の価値観に反抗するのが彼らのやり方だ。

感覚ピエロ

感覚ピエロ「A-Han!!」MV

 感覚ピエロは、ヒットチャートに迎合するだけの音楽や、それに抗う姿勢を見せながらもどこか媚びているような音楽を痛切に批判する。「リア充を爆発」させようと、他愛のないどうでもいいことをあえてテーマに据えながらも、高い演奏力と音楽センスで打ちのめすのだ。上記楽曲「A-Han!!」では、〈4つ打ち待って頂戴 テンポが足りない 4つ打ちばかりでなんだかうんざりだ〉と近年のロックシーンでは供給過多気味とも思える常套手段を、軽快なテンポに乗せた4つ打ちダンスビートで皮肉る。プロモーションはライブとクチコミがメインという、昨今の音楽ビジネスの潮流に逆らうような独自のスタンスで多くの音楽ファンを唸らせてきたが、6月9日、ついに全国流通盤をリリース。今、もっとも注目すべきバンドのひとつといえよう。

ミオヤマザキ

ミオヤマザキ STUDIO LIVE “初めまして、ミオヤマザキです。私達、ちゃんとバンドです。”

 メンヘラの彼女とその彼氏にまつわる謎解き脱出ゲーム『マヂヤミ彼女』をご存知だろうか。同作は旅行中に、彼女が温泉に入っている最中の彼氏のスマホを覗き見するという、今どきのリアルな恋愛事情が垣間見れる設定の面白さから、若い女性を中心に爆発的なヒットを飛ばしたiPhoneアプリだが、これはミオヤマザキのプロモーションとして作られたものだ。ミオヤマザキは、“メンヘラ”や“屈折した偏愛”といったフレーズが飛び出すキレキレの歌詞と、ぶっ飛んだオルタナロック・サウンドで胸ぐらをつかんでくるバンドだ。露出はほとんどなし、“スレ(ライブ)”でも顔はほとんど見えないという謎めいたバンドであるが、先日アップされたスタジオライブ動画ではバンドとしての真価を発揮。圧倒的な存在感を放つボーカルを擁し、その歌声を支える重厚なバンドサウンドは緊迫感に満ちている。自主規制のミュージックビデオなど、奇抜なプロモーションが話題になることが多いが、やさぐれた不良性のロック、ラウドロック、オリエンタルなオルタナティブ性など、ロックバンドとして多大なるポテンシャルを秘めた猟奇的なバンドだ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「音楽シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる