渡辺淳之介×松隈ケンタが語る、音楽プロデュース論「僕らはアーティストより超人じゃなきゃいけない」

渡辺「僕は必要悪でいい、ヒールでいいんです」

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スタジオには新しいドラムセットがあった

――ところで、渡辺さんはツイッターとかでのディスりとかは気にならないタイプですか?

渡辺:めっちゃ気にしますよ。僕はずっと褒められていたいタイプなので(笑)。BiSのときは全裸PVだったり、BiSHのときはネットで全曲無料試聴とか、これまでヘンなことばっかりしてきたじゃないですか。BiSのときからよく言われるのは、「楽曲はいいのに、プロモーションはどうなの?」って。そりゃ僕もきれいにプロモーションやりたいですよ。でも、BiSの前にやってたプー・ルイのソロのときに「楽曲いいね!」って言ってきてくれた人はいなかったですからね(笑)。鶏が先か、卵が先かって話にも通じると思うんですけど、これくらいインパクトのあることしなかったら聴いてすらくれなかったでしょって。まあでも、ぜんぜん褒めてくれないです。お客さんも僕のことは褒めてくれないですね(笑)。僕は必要悪でいい、ヒールでいいんです。

松隈:でも、表立って「すごい!」って渡辺くんが持ち上げられるよりは、今の方がいいと思う。渡辺くんがすごいのはみんなわかってることで、わかってる人は表に出してハッキリ言わないんだよ。渡辺くんは「私は偉いんです」みたいな空気を一切出さないところがすごいんですよ。だから、初対面の人に「もっと凶悪な人だと思ってました」と言われたりするし(笑)。「意外と人格者なんですね」って(笑)。

渡辺:あの……ほんとにみんな失礼ですよね(笑)。

――アハハ。BiSHのメンバーは渡辺さんに対して、どんな感じなんですか?

渡辺:BiSHに関しては、もともとBiSを見てきた子たちなので、僕へのちょっとした尊敬があったりするんです。そこが逆に難しいところでもあるんですけど。BiSのときは完全に言われ放題だったので(笑)。

松隈:でも、レコーディングのときの渡辺くんは、その場の空気を悪くしないようにする天才ですよ。BiSのときもBiSHのときも。レコーディングのとき、どうしてもイライラしてきてしまって厳しいことを言ってしまうときが時々あるんですけど、そんなときは渡辺くんがアホなことを言って空気をつくってくれるので、すごくやりやすい。ただ、渡辺くんが唯一ピリっとするのは、彼のアシスタントが何かミスしたとき。そのときはレコーディング中だろうが何だろうが怒鳴り散らすので(笑)、僕もメンバーも怒りが収まるのを黙って待つしかない(笑)。

――温厚そうな渡辺さんしか知らない自分にとっては意外な一面です。

渡辺:アシスタントには厳しいです。アーティストがあってこその自分たちなわけだから、僕たちはアーティストよりも超人じゃなきゃいけない。極端な話、「この人、アーティストよりも寝てないんだな」って思われるくらい頑張るのが当たり前だし、アーティスト本人にも「この人、私たちのために死ぬほど頑張ってくれてる」と思ってもらわなきゃいけない。だから、自分本位で何か言ったりしたときは怒ります。疲れて眠たかったので寝てしまって遅刻したとか、相手から連絡が来ないので保留にしてあるとか。これはBiSHのメンバーにも言ってあることなんですけど、口に出す前に自分で一度考えろよと。これでいいんだろうか?って。当然、仕方のないときもあると思うんですよ。でも、それをリカバリーしようとするヤツがなかなかいないので。まあ、わかってもらえないことが多いんですけど(笑)。例えば、電車が遅延して現場に遅れることがあるとしたら、それに対してどれだけリカバリーできるかだと思うんです。ちょっとしたウソでもいいんですよ。「今、電車が止まって閉じ込められちゃってるんですけど、扉をこじ開けて外に出ようと思って!」くらいの話をしなくちゃいけないのに、冷静に「電車遅れてるんで、すみません」みたいなのって違うなと。

松隈:今の話、クリエイターにも通じるところがあるね。例えば「手持ちの機材が少ないんですよ」とか「すべて打ち込みだから、これが限界なんです」って言ってくるのは、やっぱりそういう音なんです。機材足りないんだったら、それを逆に活かしたサウンドにすればいいのにって。カゼひいて声があんまり出ないとか、でも、そういう声でカッコよく録れる方法を探せばいいと思うんです。

――BiSHのプロジェクトの次はPOPが控えています。こちらもプラニメから引き続き松隈さんが携わっていく感じですか?

松隈:そうですね。基本的にはプラニメの方向性を踏襲しようと思っていて、アルバムで世界観をがっつりつくれたらなと。

――BiSH、POPの動向もそうですけど、元BiSのメンバーの順調そうな活動ぶりも含めて、改めてBiSを解散して良かったと言える状況と言えるんじゃないですか?

松隈:もし続いてたら渡辺くん、今頃は死んでたよね。忙しすぎて。

渡辺:たぶん、あのまま続けてたら普通のダサいオジさんになってたと思うんですよ。

――僕はここ3年くらいしか見てませんが、渡辺さん、いい意味でぜんぜん変わらないじゃないですか。年齢を重ねてキャリアを積んでくると、「風格出てきたね」「なんか大物っぽいね」みたいに言われることもあるかもしれないけど、自分の好きなようにやってるからなのか、見た目や雰囲気がまったく変わってない。簡単に言うと“若い”ですよね。それって今の道を選んだからなんだろうなと思います。

松隈:うん、それはあるかもな。

渡辺:僕の中でBISは伝説なんです。でも、BiSHのリリースがあったことで、BiSの旧譜が売れてるらしいんですよ。

松隈:BiSHやPOPのファンになった人は、そのルーツに戻ることができるという。

渡辺:今、BiSが過大評価されてるので、ほめられるのが好きな自分にとっては最高にいい時期であるとも言えます(笑)。

(取材・文=上野拓朗/POKER FACE/写真=編集部)

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