渡辺淳之介×松隈ケンタが語る、音楽プロデュース論「僕らはアーティストより超人じゃなきゃいけない」
松隈「僕のフィルターを通させてもらってるところが、BiSHらしさになってるかも」
――BiSHに関して、音楽的な方向性は決まっていたんですか?
松隈:今回、渡辺くんから最初に言われていたのは「音のオモチャ箱にしたい」ってことで。BiSの一枚目のアルバム(『Brand-new idol Society』)が、そうだったんですよ。14曲14ジャンル詰めこんで、とにかくハチャメチャにしようと。で、それをもう一回やろうと。ただ、曲をバラバラなものにするというよりは、方向性を一つに決めないでつくっていたところはあります。あと渡辺くんが言ってたのは、シンセを減らしたいと。バンドの生音を活かしたサウンドにしたい。だから、必要最小限の要素しか入ってない。いい意味で音がスカスカというか。その点は結構こだわりました。
――渡辺さんは松隈さんに「こういうサウンドがいいです」みたいに、いろいろ聴かせるわけですか?
渡辺:楽曲コンペをやるんです。僕が「こういう曲がいいです」って資料用の曲をリストアップして松隈さんに渡して、そこから松隈さんがSCRAMBLES(松隈をリーダーとするクリエイター&プレイヤーのチーム)とか周りの人に声をかけて……みたいな。
松隈:だから、僕の曲が不採用になることも当然あります(笑)。ただ、渡辺くんはみんなの得意なところを活かすタイプだから、例えばジョンスペ(ザ・ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン)みたいな曲を渡辺くんが欲しいと言って、そういう曲が集まらなかったとしても、それぞれのクリエイターの良さを伸ばしてくれる。これが他の人だったら、「こいつら違うな」って別のクリエイターに頼んじゃうんですけど、渡辺くんは意見を出しながら一緒につくりこんでいく感じ。
――BiSのときもコンペはあった?
松隈:ありましたね。SCRAMBLESのメンツも当時とは少し変わってるんですけど、僕の周りの連中だけじゃなくて、バンド仲間とかにも声をかけたりしてました。今回も集まった曲を僕の中で精査して、それを渡辺くんに渡すという感じです。
――SCRAMBLESのクリエイターたちを見て、以前に比べて成長してるなと感じることも多かったのでは?
松隈:そうですね。田仲圭太はエビ中さん(私立恵比寿中学)や夢アドさん(夢見るアドレセンス)にも曲を書いてるし、井口イチロウは“つばさFLY”っていうアイドルさんからメインソングライター的に起用していただいたり。少しずつ実績が出てきてます。でも、BiSHでは彼らの曲は使われなかったんだけど(笑)、編曲ではそれぞれ参加してるので。
渡辺:あと、今回は制作期間がほとんどなかったので、曲を書き直したりする余裕がなかったですね。
松隈:トラックダウンの日にギター弾いた曲が何曲かありましたからね(笑)。
渡辺:いい意味で時間がなかったことが幸いしたというか、僕はこのアルバムのギザギザした感じが好きです。ソリッドというか。
松隈:いろんな人の曲が入ってるんですけど、すべて僕のフィルターを通させてもらってるところが、BiSHらしさになってるかもしれないです。ボーカル録りは僕が全部やりましたし、最初から最後まで何らかの形で携わってるので。