星野源の音楽とドラマ『心がポキッとね』 両者に共通する“優しさ”と“毒気”とは? 

 この優しい世界に対する距離感や、ほのかに見える暗闇は、本作の主題歌「SUN」を歌う星野源とも通じるものがあると言える。

 星野源はソロミュージシャンとして活躍する一方で、先日解散したインストゥルメンタルバンド・SAKEROCKのリーダーや、阿部サダヲと同じ「大人計画」に所属する俳優など、様々な顔がある。

 個人的に驚いたのは、「蘇る変態」(マガジンハウス)等の著作で見せる文章の才能だ。彼のエッセイには、親しみやすい表情からは想像がつかないような毒っ気があり、今まで漠然と癒し系の人と思っていた星野源の暗い面が垣間見えて、個人的にはすごく好感を持った。

 星野源は、優しい歌声と満面の笑みを浮かべているファニーフェイスの印象から、草食系男子のロールモデル的な存在として見られることが多い。ドラマ化もされた漫画『モテキ』(講談社)の主人公である自意識過剰な青年・藤本幸世のモデルが星野源だというのは有名な話だ。

 だが、星野の曲は、表向きは誰もが癒される優しい世界を提示しながら、その裏側に残酷な真実や毒が散りばめられているように感じる。だから、聴き込めば聴き込む程、心がザワザワしてくる。

 「地獄でなぜ悪い」では、脳動脈瘤再発による過酷な入院体験をもとに、病室の窓から下界を眺めながら、自分は楽しい地獄に生きている……と思う感覚が歌われていたが、こういう心境をポップに歌えてしまう感覚には驚かされる。

 本作の主題歌「SUN」も、おしゃれでポップな曲調だが、どこかもの悲しく、コメディタッチで生きるのが苦しい人たちを描く岡田惠和の世界観とシンクロしている。

 また、声質が柔らかいためか、さんさんと降り注ぐ太陽の光というよりは、穏やかな木漏れ日のような感触がある。

 奇しくも、岡田惠和が2011年に手掛けた連続テレビ小説のタイトルが『おひさま』だったのだが、「SUN」も『おひさま』も、押しつけがましくない距離感ゆえの優しさがある。穏やかな木漏れ日は、暗い影があるからこそ輝くのだ。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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