RHYMESTERは今のスタイルをどう掴みとったか?「やっぱり、オレらはライヴ・バンドなんだ」

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「照れのようなものをなくして、『届かせなきゃいけない』と」(Mummy-D)

――ところで、「人間交差点」と「Still Changing」は、今回のシングルから新しいシーズンに入るRHYMESTERの態度表明のようにも聴こえるわけですけど、これを機にひとつ前のシーズンの始まりの頃を振り返って頂こうかと思います。つまり、先程もタイトルを挙げた「ONCE AGAIN」のことで、同曲はBACHLOGICの起用も重要な一方、あそこで打ち出した俗に言う〝エモい〟表現こそが、10年代におけるRHYMESTERのイメージを決定付け、「人間交差点/Still Changing」もまた同曲の延長線上にあると感じられます。当時、そのような方向性は意図的に選択したものだったのでしょうか?

宇多丸:最初、ヴィジョンを提示したのはDだね。

Mummy-D:うん。当時のことはもうはっきりとは思い出せないんだけど、何かを解放しようとしていた気はする。照れのようなものをなくして、「訴えかけなきゃいけない」「届かせなきゃいけない」と思っていたっていうか。

――その、訴えかける範囲、届かせる範囲というのは?

Mummy-D:何だろう。単純に〝一般層〟ということでもないんだけど。ただ、「ヒップホップ・タームをなるべく使わずに」とか「ヒップホップ・シーンの外側にいる人にも自分の曲と思ってもらえるように」みたいなことを、今よりもっと厳しく考えていたかな。

――とは言え、「ONCE AGAIN」はいわゆるポップスではない、純然たるラップ・ミュージックですよね。そういった楽曲を多くのリスナーに訴えかけるため、届かせるために選択したのがエモい表現だったということでしょうか。

Mummy-D:それ(ポップス)をやったらRHYMESTERじゃなくなるから、オレらとしては当然の選択だったというか。あの頃は、言葉を強くすることこそが、新しいリスナーに自分たちの音楽を届けるための近道なんだと気付いて、「オレらの戦い方としてはこれかな」って実践し始めていた時期だったと思う。

――ZEEBRA「Street Dreams」(05年)以降というのか、SEEDA「花と雨」(06年)以降というのか、日本のラップ・ミュージック全体でもエモい曲が流行っていた時期ですよね。

Mummy-D:そうなのか。

宇多丸:うん、そういう流れはあった。NORIKIYOくんとかね。

――先程、「ONCE AGAIN」は「ヒップホップ・タームをなるべく使わずに」「ヒップホップ・シーンの外側にいる人にも自分の曲と思ってもらえるように」つくったと言ってましたけど、実は日本のラップ・ミュージックの動向とリンクしていた部分もあったのかなと。

Mummy-D:いや、それは偶然だね。オレはそんなにシーンを意識して何かをやるタイプではないから。今までの、言葉遊びだったり、ライミングだったりに掛けていた重心をもっと言葉そのものに寄せたという感じかな。

――あるいは、『ウワサの真相』(01年)でメジャー・デビューして以降の活動に対する反省というか、「もっとやれたんじゃないか?」みたいな気持ちがあったということでしょうか。

宇多丸:反省とはまた違うような。

Mummy-D:あの時代はあれで正しかったと思うんだけど、ただ、(『マニフェスト』の前作にあたる)『HEAT ISLAND』(06年)の時に、日本のヒップホップ・シーンにおけるRHYMESTERの位置付けにちょっと限界を感じたのはあるかもしれない。反省とまではいかないものの、もうワン・ステージ上に行かなきゃいけないとは思ってた。それが、グループとしての活動休止(07年~08年)にも繋がったしさ。

 そして、オレは活動休止の間、マボロシ(ギタリスト・竹内朋康とのユニット)でクロスオーヴァーなことをやっていたわけだけど、そこでヒップホップ以外の人と交流することによって、見えてきたものがあった。「ヒップホップ・シーンの外側に発信しなきゃ」というのは、その辺りから考えるようになったんだと思うね。正確に言うと、マボロシでは、ヒップホップの外側で色々やることで、ヒップホップを盛り上げようということも考えてたんだけど、RHYMESTERはもともとヒップホップだからあえて外側に向かう感じというか。

――JINさんもまた、様々なパーティでDJをするようになっていきましたよね。

DJ JIN:やっぱり、ヒップホップ自体が拡散している感じもあるからね。もちろん、ヒップホップは凄く好きだし、今でも自分のベースにあるんだけど、個人でDJをやっているときは、ヒップホップとかシーンとかはあまり意識しないというか。今、オレのDJの現場は凄くバラエティに富んでる。「日本語ラップだけで90分回して下さい」ってリクエストされる時もあれば、四つ打ちだとか、クロスオーヴァー・ジャズだとかのパーティに呼ばれることもある。オレ自身も拡散しているということなのかな。

宇多丸:一方、オレはオレでラジオ(TBS RADIO「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」、07年~)を始めて、いわゆるヒップホップ・プロパーでも何でもない〝ザ・一般層〟の人たちと接する機会が増えたりと、それぞれ、ヒップホップの外に意識を向ける傾向が強い時期があったわけ。その上で、RHYMESTERを再始動させるにあたって、「今までのやり方じゃない、もうちょっと先に届かせるためのひと工夫が必要だ」って思った時に、Dの、「ヒップホップ・タームをなるべく使わずに」「ヒップホップ・シーンの外側にいる人にも自分の曲と思ってもらえるように」みたいなヴィジョンを聞いて、「そうだよね」と。ただ、リリックを書く上で、難解な表現を避けたり、あえて、平易な表現を選んだりするっていうことは、むしろ、技術的には高度なものが要求されるんだよね。しかも、ダメ出しも今までより厳しくしてもらったし。「これ、分かる?」「いや、ここは分かりづらい」「これならどう?」みたいな感じで推敲を重ねた末に出来たのが「ONCE AGAIN」。

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