栗本斉の「温故知新 聴き倒しの旅」

EPICソニー黄金時代を担ったBARBEE BOYS 今なお色褪せないサウンドを聴く

 

 それにしても、生々しいかけ合いは、今聴いてもとても新鮮です。これほどまでドロドロとした世界は、演歌や歌謡曲ならともかく、当時のポップスやロックのフォーマットで繰り広げられていったことは画期的だったといえるでしょう。凛として時雨や、HY、モーモールルギャバンなど、今も男女ツイン・ボーカルのロック・バンドはいくつもありますが、いまだにBARBEE BOYSフォロワーと呼べるタイプは存在しません。

 加えて、バンドとしてのサウンドの緻密さも特筆すべきものがあります。サウンドの要は、詞曲も手がけるいまみちともたかのギターでしょう。カッティング中心のエッジーで空間的なプレイはとにかく存在感があり、当時は速弾き至上主義だったギター小僧たちにも大きな影響を与えたはずです。また、そのプレイを支えるエンリケと小沼俊明によるソリッドなリズム・セクションも、バンドが持つ疾走感を見事に表現しています。そしてKONTAが時折吹くソプラノ・サックスが新鮮に響き、他にはないユニークなバンド・サウンドに仕上がっているのです。曲によっては、ニューウェイヴや80'sファンクなどを思い起こして非常に洋楽的ではあるのですが、マニアックに感じさせなかったのが成功の要因だったのでしょう。

 しかし、BARBEE BOYSの活動は、あれだけビッグになったにも関わらず、ほんの10年ほど。オリジナル・アルバムもたったの5枚のみです。でも、先日デビュー30周年を記念してリリースされた『1st OPTION』と当時の渋谷公会堂ライブを収めた『REAL BAND -1st OPTION 30th Anniversary Edition-』を聴いて、短命だったことの謎が解けました。それは、この当時すでにバンドとして完璧だったからです。『1st OPTION』を通して聴くと、その後展開されるBARBEE BOYSのすべてが詰まっています。だから、アルバムを重ねていくごとに、バンドとしては成長しているにも関わらず、鮮度が失われてしまったように感じるのも当然。おまけに、ライブ・テイクに関しても、「こんなに上手いバンドだったんだ?」と感心ひとしきり。本来は、この時点で解散してもおかしくなかったのかもしれません。

 これまでに何度か復活ライブはありましたが、いわゆるレコーディング作品は90年のラスト・アルバム『eeney meeney barbee moe』以降は存在しません。よくある“復活して欲しいバンド”みたいな企画では常に上位にエントリーされますが、『1st OPTION』を改めて聴いてしまうと、きっと無理なんだろうなあと思ってしまいます。この新鮮な驚きを超えるのは相当難易度が高いでしょうから。メンバーもきっと同じように感じているはずです。

 とはいいつつも、個人的には再結成と新作をひそかに期待してはいるんですけどね!

■栗本 斉
旅&音楽ライターとして活躍するかたわら、選曲家やDJ、ビルボードライブのブッキング・プランナーとしても活躍。著書に『アルゼンチン音楽手帖』(DU BOOKS)、共著に『Light Mellow 和モノ Special -more 160 item-』(ラトルズ)がある。

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